赤松 桃子さん、ショートヘアが似合っていらっしゃいますけれど、髪の毛っていつもどうされているんですか?
安藤 美容師さんを前にお話しするのは、すごく申し訳ないんですけれど、もうかれこれ数カ月、切っていないかも(笑)。スタイリングも何もしていないんですよ。最近は、ココナッツオイルを顔やおなかに塗って、手に残っているのをそのまま髪につけちゃうぐらいで(笑)。
赤松 あのね。
安藤 はい?
赤松 いいと思います(笑)。
安藤 ホントですか?(笑)
赤松 ホントに。私たちは美容師で、ヘアスタイルをファッションの一部だと考えています。ただ、ファッションの一部ではあるけれど、流行っていればいいとか、売れているものならいいとかではないんです。私自身も長年そう思っていますし、「HAIR CATALOG.JP」に関わっている美容師さんもそうですけれど、「スタイルを持った人にヘアを提案したい」と考えているんですよ。
安藤 「流行」とか「売れる」とかに流されないっていうことですか?
赤松 美しいとかカッコいいというのは、ひとつの基準としてはあると思っていますけれど、そもそもヘアスタイルは、その人があって存在するもの。だから、表面的に可愛いとかカッコいいとか、流行っていればとか、売れていればいいではないし、そもそも「みんなが同じ」美しさとかカッコよさなんて、ないはず。「あなたの可愛さ」とか「あなたのカッコよさ」じゃないと成立しないと思っているのです。可愛いとかカッコいいというのは、ひとつじゃないですし。あなたには、このような可愛さがあり、あなたには、このようなカッコよさがありという感じですね。だから、桃子さんがおなかに塗る油を髪につけているのも桃子さんにはアリだと思うんですよ(笑)。
安藤 髪の毛のこと考えたときに、いつも思うことがあるんですけれど。
赤松 どんなことですか?
安藤 最近、レストラン選びなんかでも顕著ですけれど、クーポンがあるからここにしようというスタンスで選んでいる人がいますよね。
赤松 多いですね~。
安藤 でも、髪は、肉体の一部でしょ? 爪もそうですけれど。
赤松 そうですよね。
安藤 それを触らせる相手をクーポンで選んでいいの?って思うんですよ。
赤松 確かに。
安藤 大切な肉体の一部なんだから、心から許している相手でないと、私は触れられたくないなと思うんです。心を許していない人に触られることを想像しただけで「うわー」ってぞぞけが立つ(笑)。
赤松 そういう感覚は、真っ当だと思いますよ。
安藤 もしも痴漢がいたとしたら、私は、お尻を触られるよりも、髪を触られるほうがイヤですね。
赤松 それだけ髪の毛や頭は大切なもの。
安藤 お尻の下ぐらいまで髪を長く伸ばしていたこともあったんですけれど、それを切るときもヘアスタイル云々という以前に、「人生の大きな一部をどこかに捧げる」感じがしたんですよ。若かりしころは、ほんのちょっと失敗されただけで、1週間、凹んでいましたし(笑)。髪は伸びるものだとわかっていても、それぐらい抵抗がありますね。
赤松 お客さまにとって、それほど大切なものを預けていただいているんだという自覚を美容師は持ったほうがいいですね。
安藤 美容師さんって、こちらからしたら、生きている肉体を触らせる相手で、断ち切ることを許せる相手。クーポンで選ぶのではなく、魂で選ぶべきだと思うのです。