イーヴァ・キャシディ Eva Cassidy
2020.04.08
今年に入ってからコロナウイルスのために行動が制限されるような困った世の中になって、何だか2011年の震災直後に味わった不安な気持ちが社会全体に甦ってきました。個人的にはできるだけ普通通りの生活を続けるようにしていますが、不愉快なことが多い中で気持ちを落ち着かせてくれる声を聞くとほっとすることがあります。
今回紹介するのはまさにそんな声の持ち主、イーヴァ・キャシディです。アメリカのワシントンDCで生まれた彼女はその近辺だけで活動し、白人なのに非常にソウルフルな声が地元で高く評価されていましたが、皮膚がんのために33歳で亡くなりました。それは今から24年前の1996年のことでした。
当時ぼくは彼女のことを全く知りませんでした。個人的には比較的最近その魅力を知ったのですが、この前番組のリスナーの方からリクエストをもらって、聞き直したら前よりもすごくいいと思ったのです。ちょっと遅かった……。
彼女は生前にさほど多くのレコードを出していなかったのです。亡くなった2年後の1998年にコンピレイションのCD『Songbird』が発表された後も、しばらくの間大きく注目されることはありませんでした。ところが2000年にイギリスのBBCラジオのあるプロデューサーがこれを気に入り、彼の担当番組のDJがイーヴァの曲をかけるようになったらじわじわと人気が高まり、最終的に『Songbird』はイギリスのアルバム・チャートの1位まで上がったのです。
イーヴァがあくまでワシントンのローカル歌手だったころのライヴのヴィデオがあり、映像も素朴で彼女の雰囲気も決して派手ではないけれど、歌のうまさ、そして聞き手の心に刺さる何か特別なものが間違いなくあります。ぜひ聞いてみてください。
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。