キャンディス・スプリングズ Kandace Springs
2020.05.07
今年の春、ライヴを見るのを楽しみにしていた一人がキャンディス・スプリングズです。コロナ騒動のため中止になりましたが、3月に発表された彼女の3作目のアルバム『私をつくる歌〜ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』はとてもいいです。
キャンディスは1989年にナシュヴィルで生まれ、8歳の時から家でニーナ・シモーンのレコードを聞いていたと言います。10歳からピアノを習い始め、その直後ぐらいにデビューしたばかりのノーラ・ジョーンズや、ロバータ・フラックのレコードなどをお父さんにもらって、特にピアノを弾く女性歌手たちの影響を受けてきました。
2014年に、当時ヒットしていたサム・スミスの「ステイ・ウィズ・ミー」を歌うヴィデオをYouTubeに公開したら、それを見たプリンスからミネアポリスに突然呼ばれ、彼のペイズリー・パークの30周年記念コンサートで歌うことにつながりました。ちょうどその頃に今契約しているブルーノート・レコードのオーディションを受けましたが、その時に歌ったボニー・レイトのヒット曲「アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー」をこの新作アルバムで見事に解釈しています。
ニーナ・シモーンのヴァージョンで有名な「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」も、ロバータ・フラックの「やさしく歌って」も取り上げています。またノーラ・ジョーンズと共演している曲があります。二人はどうやらナシュヴィルの空港のトイレでたまたま出会ったとのことですが、意気投合してノーラの家でセッションした結果、エラ・フィツジェラルドの歌で有名な「エインジェル・アイズ」を一緒にやることになりました。
どちらかといえばスタンダードと呼ばれるような古い曲が多い印象かも知れませんが、ローリン・ヒルの「エックス・ファクター」もシャーデイの「パールズ」も、あくまでキャンディスのスタイルで取り上げています。
そのスタイルはR&Bもジャズも混ざったものですが、キャンディスの年齢を考えれば意外なほど成熟した歌い方で、キーボードも巧いです。普段ならあまりこういう音楽を耳にしない若い世代の人も、彼女の若さとカッコいいイメージに惹きつけられて気に入ると思います。早くライヴが見られる日々が戻ってくることを祈ります!
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。