Saffiyah Khan
2019.04.15
Saffiyah Khan(サフィーヤ・カーン)
2年前の4月、イギリス中部のバーミンガムで展開していた抗議行動で、あるイスラム系の女性が複数の右翼の男たちに囲まれて怒鳴られていました。その様子を見かねた当時20歳のアジア系イギリス人女性サフィーヤ・カーンは一人の右翼の前に立ち、彼の罵声の前であくまでクールに対応した写真があっという間にSNSで世界中に回って話題になりました。
— Caio Blinder (@caioblinder) 2017年4月14日
その時に彼女が着ていたのはThe SpecialsのTシャツでした。
— David Lammy (@DavidLammy) 2017年4月9日
1990年代生まれの彼女がスペシャルズのことをどの程度知っていたかな。
1979年に画期的なデビューをした彼らは80年代半ばには解散し、その後個々のメンバーは地道に活動をしていたものの、若い世代まで彼らの最盛期のレコードが聞き継がれていたとはあまり思えません。因みに、スペシャルズというと、パンク・ロックの時代のすぐ後、パンクのエネルギーを持って、すでに過去の音楽となっていたジャマイカのスカのリヴァイヴァルを起こし、しかも白人と黒人のメンバーが一緒に演奏することによって、当時一部で持ち上がっていたレイシズムに対してものを言う存在でした。
最近久しぶりにオリジナル・メンバーで少しライヴ活動を再開していたスペシャルズは40周年を記念する久々のアルバム「アンコール」をつい先日出しました。 その中に、最初から彼らに絶大な影響を与えていたジャマイカの伝説のDJ /プロデューサー、プリンス・バスターが60年代に発表した曲「Ten Commandments of Man」(男の十戒)のカヴァーをすることにしていました。
しかし、今聞くとこの曲の歌詞の男尊女卑振りには気が引けるものがあります。そこで、スペシャルズはサフィーヤ・カーンに声をかけて、彼女にこの曲の新たな歌詞を書いてもらうことを依頼したわけです。これまで音楽の経験は全くない彼女はバーミンガム生まれで、十代の後半から近所の社会プロジェクトに写真家として関わっていました。 当時のことを、その半年後にTEDトークで本人が語っています。
こうして生まれたのがスペシャルズの“Ten Commandments”です。作詞に予想以上に時間がかかったサフィーヤは録音のぎりぎり前まで悩み続けたのですが、例の事件の時と同じようなクールな口ぶりで、プリンス・バスターも含む男尊女卑的な男たちを諭す形になっています。英語の歌詞が画面に出てくるヴィデオもなかなかカッコいいものです。
事件の後に落ち着いてイスラム系の女性と話せた時の動画
その後のサフィーヤのイメージは次々と変わりました。
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現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。