アリーサ・フランクリン/ビリー・ホリデイ
2021.02.01
このコラムを始めたきっかけは何かと言うと、数年前にこのhaircatalog.jpで美容師の山下浩二さんと対談したことでした。山下さんと音楽の好みが重なるところが多くすぐに意気投合しました。その後ずっとDoubleで髪を切っていただいていますが、いつも音楽などの話題で話が弾み、また店内でかかっている音楽は好きなものばかりなのでとても落ち着きます。
コラムを頼まれた時は少し悩みました。このサイトの読者は圧倒的に女性だということで、取り上げるのはやはり女性中心にした方がいいと思いつつ、ぼくが聴く音楽はどちらかといえば男の作品が多いです。特別意識していることではありませんが、ぼくのラジオ番組で女性の作品があまりかからないと指摘されたことがあり、気がついたらそうでした。
また全体的にポップなものよりもうちょっと地味というべきか、表面ではなく、音楽そのものが持っている魅力に反応するタイプなので、ヘアスタイルなどと縁のない聴き方をしています。
最初のうちはそれでも髪型が印象に残る人たちに注目してみました。第1回で取り上げたジョーン・バエズは年をとるにつれ渋くなり、敢えて染めない白髪のショート・カットはカッコいいと思いました。その次は有名な人でも何でもなく、スペシャルズの曲に起用された普通の若い女性サフィーヤ・カーンでした。街で人種差別に反対したことでにわかに注目を集めた彼女のことを調べていたらどの写真を見てもそれぞれ髪型が違うのでぴったりだと思って、この調子で行けたらいいな、と。
しかし、音楽中心で考えているとなかなかヴィジュアル面が思うように行かないものです。でも、毎回様々なスタイルやジャンルで優れた音楽を作る女性たちを紹介できたと思います。コラムは今回で終了しますが、ちょうどこのタイミングで超個性的な女性歌手たちの映画が公開されようとしています。
一つはアリーサ・フランクリンの最高傑作と言われるゴスペルのライヴ・アルバム『アマエイジング・グレイス』。1972年にLAの教会で録音された時の映像は長年未編集でしたが、ようやく日本でも公開の運びとなりました。5月28日からです。
https://www.youtube.com/watch?v=f-TrUNVf0A8
そしてもう一つはビリー・ホリデイのことを描いた『The United States vs. Billie Holiday』。元祖プロテスト・ソングといえる「奇妙な果実」を歌い続けたことでアメリカの当局に睨まれた彼女をFBIが、麻薬中毒だったためにしつこく追跡した話です。これは劇映画で、ビリーを演じているアンドラ・デイはアカデミー賞の候補になっています。日本での公開はまだ決まっていませんが大変楽しみな作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=USi-ppCfxEA
https://www.youtube.com/watch?v=Epm0v1px2oM
因みにビリー・ホリデイをテーマとしたドキュメンタリー映画『Billie』も最近アメリカで公開されていて、これも興味深い内容で、本人がライヴで歌っている映像の中にぼくはこれまで見たことがないものがありました。こちらは夏には日本で見られそうです。
https://www.youtube.com/watch?v=hKimh-iPd_0
ここまで読んでくれてありがとうございました。またお会いしましょう!
ピーター・バラカン
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。