Our Native Daughters
2019.05.08
Our Native Daughters
今年のアカデミー賞で作品賞と助演男優賞受賞の「グリーン・ブック」、助演女優賞受賞の「ビール・ストリートの恋人たち」、そして脚色賞受賞の「ブラック・クランズマン」はそれぞれアメリカの人種問題をテーマとしたものでした。どれも60年代から70年代の時期を描いた作品ですが、こういう映画が今でも話題になるのは、やはり現在でも人種間の問題が変わらず続いている証拠です。
数年、主にフォーク・ミュージックの世界でアフリカン・アメリカンの若い女性リアノン・ギデンズはとても面白い活動をしています。フォークというとまず白人の音楽というイメージですが、メンバーが全員黒人のキャロライナ・チョコレート・ドロップスというグループでデビューした彼女は、その後優れたソロ・アルバムでフォーク以外の幅広い曲を歌うようになりました。
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そのリアノンの最新プロジェクトは「Songs Of Our Native Daughters」という企画アルバムです。参加者は彼女の他3人のアフリカン・アメリカンの女性、アミシスト・キア、レイラ・マッカラ、アリスン・ラッセルです。全員が作曲もし、歌も歌い、複数の楽器を演奏しますが、みんなが弾く楽器はバンジョーです。
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バンジョーという楽器は19世紀半ばから、ミンストレル・ショウという大衆芸能で人気が出たのです。このミンストレル・ショウは南部の黒人奴隷たちの生活を歌と踊りでパロディにしたような娯楽で、顔を黒く塗った白人が大げさな身振り手振りで黒人を演じたものです。ややショッキングなことに、ぼくが子供だった頃のイギリスのテレビではまだミンストレル・ショウが存在していましたが、さすがに今は差別的なイメージになって、過去のものとなっています。
とにかく、アフリカン・アメリカンにとってバンジョーはそんな娯楽と切り離せないイメージの楽器なので、圧倒的に否定的に見られて、長いこと黒人のミュージシャンが演奏することはほとんどなかったのです。しかし、バンジョーのルーツは西アフリカにあり、奴隷としてアメリカに運ばれた人たちが使っていたものから段々今の形に変わって行きました。
リアノン・ギデンズは早くからキャロライナ・チョコレート・ドロップスでいちばん古いタイプのバンジョーを弾いていました。音は素朴で、フレットもないので、弾きようによってはアフリカの楽器のようにも聞こえます。そして今回の「Songs Of Our Native Daughters」では4人の黒人女性たちがそれぞれ違ったタイプのバンジョーを演奏し、奴隷時代、あるいはその後のひどい差別の時代の様子を描いた歌を歌うことで、多くの人がついつい無視してしまう過去にもう一度目を向けています。中には辛い内容の曲もありますが、4人の歌と演奏は見事で、目下愛聴盤です。
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。