フロール・デ・トロアチェ
2019.09.09
メキシコでは恋の特効薬として今でも使われる花、トロアチェ(toloache)というのがあります。そしてその花の名前をグループ名に付けたフロール・デ・トロアチェ(Flor de Toloache)は、全員女性によるマリアッチ(メキシコの伝統音楽)のバンドです。ニューヨーク在住のメンバーの家系をたどれば、メキシコ以外にもプエルト・リコ、ドミニカ共和国、キューバ、コロンビア、またドイツ、イタリア、アメリカも混ざりますが、彼女たちが演奏する音楽は基本的にマリアッチのスタイルに忠実ですが、他のラテン音楽のスタイルも取り入れ、明らかにモダンな感じもするし、曲によって歌詞が英語だったりもします。マリアッチは長いこと男だけが演奏する音楽でしたが、少しずつ女性の存在が認められ、このグループの前のアルバムはラテン・グラミー賞で部門賞を受賞しているほどです。新しいアルバム「Indestructible」は単に「カッコいいラテン音楽」と捉えればいいと思います。
2008年に結成されたこのフロール・デ・トロアチェは5人編成で今年10月に来日し、ぼくがキュレイターを務めるフェスティヴァル、Live Magicにも出演します。メンバーはミレヤ・ラモス(ヴァイオリン)、シャエ・フィオル(ビウエラと呼ばれるメキシコの小型ギター)、イェセニア・レイェス(ギタロンと呼ばれる大きなアクースティック・ベース・ギター)、そしてジューリー・アコスタとジャキー・コールマン(共にトランペット)で、歌はミレヤとシャエが担当します。
実はぼくもちょっと前まで知らないグループでした。ラテン音楽に詳しい知り合いに薦められて、このヴィデオを見たら一発で気に入りました。
今から3年半ほど前のもので、メンバーは今より一人少ないですが、存在感はすごい!!
先日このグループは音楽とは別の観点からも評価される曲を発表しています。「El Corrido de David y Goliat」(ダビデとゴリアテのバラッド)というこの曲はアメリカの悪名高い移民・税関捜査局の厳しい取り締まりを受けるラテン系の移民たちにに対して、どんな権利があってそれをどのように行使すれば効果的かを説明する形になっています。
人権団体の南部貧困法律センターとの共同企画として生まれたこの曲は、今のトランプ政権のアメリカでは無防備な移民たちにとって貴重な情報源になるでしょう。
とにかく、フロール・デ・トロアチェは10月20日にLive Magicに出ます。ぜひご覧になってください!
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。