ブリタニー・ハワード Brittany Howard
2019.12.20
自分の青春時代だった1960年代からずっとソウル・ミュージックが大好きだった人間ですが、ヒップ・ホップ以降のブラック・ミュージックには今一つついて行けないことが多いです。その例外のひとつはアラバマ・シェイクスでした。まさに60年代後半辺りの音楽を思い起こさせるこの若いバンドのサウンドには、自分の年齢に合わない興奮を覚えるほどでした。リード・ヴォーカルのブリタニー・ハワードは決して一般的にスターのイメージではない人ですが、歌のうまさとパワーのすごさに最初からまいりました。古典的なリズム・アンド・ブルーズのバンドにもかかわらず、ブリタニー以外のメンバーは全員白人で、彼女はハーフ(父は黒人で母は白人)です。
2015年に出たアラバマ・シェイクスの2作目「サウンド・アンド・カラー」は大ヒットし、ライヴで世界を回る話題のバンドとなりましたが、その後曲作りができなくなってしまったブリタニーはバンドの活動休止を宣言しました。拠点となっていたナシュヴィルからパートナーの女性と一緒にロス・アンジェレスに移ると曲が再び沸くようになり、この前「Jaime」(ジェイミ)というタイトルのソロ・アルバムを発表しました。ジェイミは13歳で珍しい目の癌で亡くなったブリタニーの姉の名前。直接ジェイミのことを歌っているわけではありませんが、家族のこと、自分の子供の頃のことを、今30歳の彼女が音楽にしています。「ジョージア」では中学生の時に女性のクラスメイトに感じた憧れをシンプルに歌ったり、「ゴート・ヘッド」では彼女の家族に対する人種差別のことを赤裸々に表現しています。「父さんの車のタイヤを切って、後ろの座席に山羊の頭を置いたのは誰だろう。私が知ってはいけないことだったかな」。
アラバマ・シェイクスからはベイシストのザック・コクレルだけが参加し、他にはジャズのドラマーとして知られるネイト・スミス、また曲によってはキーボードでロバート・グラスパーが演奏しています。サウンド的にはアラバマ・シェイクスとはかなり違う、より繊細なところが目立ちますが、ブリタニーの歌のパワーは相変わらずです。
NPRのTiny Desk Concertに彼女の新しいバック・バンドが一緒に出た映像は素晴らしい!
じっくりライヴを聞きたい方はどうぞこちらのコンサートも。
またシングル扱いの曲Stay Highの素朴なアクースティック・ヴァージョン
更に、デビューした頃のアラバマ・シェイクスはこちらで見られます。
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。