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映画
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寒空のもと、映画をひたすら観続けて考えたロッテルダム映画祭

2019.02.28

 私にとって「映画とは何ぞや?」という問いを頭の中で巡らせながら毎年初めに参加するのがオランダのロッテルダム国際映画祭です。毎年1月に開催されるのですが、ほぼ毎年参加しています。2000年頃から来ているので今年で恐らく19回目。映画館の番組編成という立場と、映画祭のプログラム・ディレクターという立場を兼ねて、日本に持ち帰り上映する作品を探しに来ています。 ロッテルダム映画祭は若手映画監督の登竜門として世界的に有名ですが、一方でいち早く映画と現代美術をクロスオーバーさせた展示や、映像パフォーマンス作品をそのプログラムに取り込み、従来の「映画」の考え方の枠を積極的に広げてきた映画祭でもあります。その目玉であるコンペティション部門は、長編デビュー1本から2本目までの監督が対象。この部門のグランプリにあたるタイガー・アワード賞をステップに、世界のより大きな舞台に羽ばたいていった監督がたくさんいます(例えば『ダンケルク』のクリストファー・ノーランや、韓国のホン・サンスなど)。また、プロデューサーが映画の企画を持ち寄り出資者とお見合いをする企画マーケット“シネマート”も、この映画祭の重要な機能で、今でこそ世界中の映画祭で行われていますが、ロッテルダムがほぼ最初に始めたと言えるでしょう。

 
*今回のメイン会場となるシネコン「パテ」

デビューしたての監督作品や撮影前の企画が集まり、美術館での映像展示やライブハウスでのパフォーマンス映画などが行われるこの映画祭には、参加する毎に大きな刺激を受けます。「これからの映画のあり方を考える場」であること。それが常に意識されている実験性と冒険心が、この映画祭を特徴付けています。  

こんなものが「映画」? この「映画」を上映することに果たしてどんな意味がある? 思いつきもしない発想の作品に出会う喜びがある一方、これはどう考えればいいんだろう……と頭を抱え悩んでしまうような作品(それはしばしば同じ作品だったりします)との出会いもあり、冒頭で書いた「映画とは何ぞや?」という問いが、頭の中をぐるぐるとせわしなく巡る映画祭です。  


*とある日の朝ごはん。フランドル派風の光が射す。

やはり今年のロッテルダムでもありました。その問いに直面せざるを得ない作品が。アルゼンチンのマリアーノ・ジナス監督の『La Flor(花)』という作品です。なんと14時間半の超・長編映画。エンドクレジットだけで41分あるという……。朝7時から上映を始めても、終わるの夜9時半ですよ。観る人の都合考えてる?  

この作品は昨年夏のロカルノ国際映画祭で上映されており、その映画祭ディレクターから面白いと聞かされてはいたのですが、観たところでどうしようもないと思い、ロッテルダムの上映プログラムにタイトルがあるのを発見しても観るのは敬遠していました。はっきり言ってそんなものを映画館で上映して商売になると思えません。そんな長尺を頑張って観に来るお客さんが果たして日本に何人いるのでしょうか。字幕制作費だってバカにならない(通常の映画の9本分?)……。
映画祭では、開催中に色々なところで顔を合わせるお馴染みの仲間というのがいて、すれ違った短い時間で、あの映画どうだった? などと意見を交換しあったりするのがしょっちゅうです。しばらくそういうことを続けていると、この人の言うことは信用できるぞ、こいつのオススメはハズレがない、ということがだんだん分かってくるのですが、そうした仲間たちがことごとくこの作品が良いと言うのです。ということで「どうせ面白いんでしょうよ……」と、3部に分かれたこの作品の、第3部だけ観てみることにしました。 で、これがやはり面白いんです。第1部と第2部を見逃してしまったことを即座に後悔。長尺なので連続ドラマ的なのかというとそうではなく、いくつかエピソードが独立しており、それぞれがなんとなく繋がっているような構造(全編観ていないのではっきりしたことが言えないですが)。アート映画ではあるのですが、難解ではなく、SFやスパイものといったジャンル映画の体裁をとっていて普通に面白く、ぐいぐい観られます。かといって完全な娯楽作というほど素直ではなく、それなりの歯ごたえも持っているという大変魅力的な映画でした。映画の歴史をジャンル映画の歴史として捉えて、その文脈で映画とそのものを問い直すような視点がスリリングです。  


*とある日の上映パフォーマンス


*上映が終わって名物DJの登場

こうしたものを観てしまった場合、課題が生じます。わざわざヨーロッパくんだりまで映画を探しに出かけて行っている以上、面白いと思った作品をスルーして良いものだろうか。とはいえ上映するとしても、最大限のお客さんの目にもきちんと触れなければ意味がないし、何よりコストをどのようにペイさせるのかも考えなければいけない。しかし考えれば考えるほどペイのしようがなさそう……。出会ってしまったが100年目ってやつで、思い悩み続けることになるわけです。  

そういうわけで収穫があったのかなかったのか分かりませんが、課題や考えなければいけないことだけは積みあがったロッテルダム映画祭。次はそのままドイツへ移動、2月のベルリン国際映画祭に参加します。

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