良い映画・当たる映画
2020.01.30
マレーシアのマラッカから帰国して3日後。10月頭は恒例の韓国・プサンに向かいました。アジア最大としてその名を轟かすプサン国際映画祭。マラッカからのスケジュールは過酷で、プサン映画祭から、インドネシア・バリの映画祭に飛び、東京に到着したらそのまま新幹線に乗って山形国際ドキュメンタリー映画祭に参加するという計画。ちょっと無理めですが、招待の声をかけていただいている今が花、なんとか頑張って全部行くぞ! と気合いを入れて出発しましたが、気合いだけではどうにもならないのが世の常・天の常。前年のプサン映画祭は期間中に台風が直撃し、一日ホテルの部屋で過ごすなんてこともありましたが、今年も台風が我が旅路を阻むのでした……。
2018年、台風直撃の釜山映画祭。ホテルの窓からの眺め。
その顚末については後述するとして、私が何故毎年プサン映画祭に行くのか。上にも書いたようにこの映画祭はアジア最大規模。その年の映画祭サーキットの話題作から、アジアの注目新人監督作品まで、大量の作品が上映されます。いろいろチェックしに行くのにとても都合のいい映画祭だからというのが大きな理由(その他にも東京から飛行機で2時間ととても近いとかシーフードが美味しい、などいろいろあるのですが……)。映画館シアター・イメージフォーラムの番組編成担当として、当館でヒットしそうなものを探しに行くのがとにかく第一のミッション。映画祭に付随してアジアン・フィルム・マーケットという、映画の権利を売買する見本市のようなものがあり、私は映画権利バイヤーとしてそこに招待されているのです。
『映画の殿堂』のイベント広場。
実際に前年には、この映画祭でお披露目された『主戦場』というドキュメンタリー映画に出会い、その後当館で公開する流れとなった結果、当館歴代2位の大ヒット。公開後現在に至るまで30週以上にわたって上映が続いています。こうした作品に映画祭で出会える可能性があることも、映画祭の醍醐味のひとつ。多くの映画を観ても、日本では公開できなかったりする作品の方が正直言って圧倒的に多いのですが……。
映画祭は作品が世界で初めてお披露目される場所。まだ評価の定まっていない(映画祭が選んでいるという点では、すでに一定の評価はされているのですが)作品を、数ある中から選んで観て、これは当たるかも! と思った作品を上映し、それがヒットした時の嬉しさと言ったらありません。そうした映画を買い付け、日本で手間と経費をかけて上映する配給という仕事は、ちょっとしたギャンブルです。プサン映画祭にはそうした可能性を持った作品を求めて、日本からも配給バイヤーが多く訪れます。その人たちと夜、情報交換しながらご飯を食べるのもとても楽しい。食べ物がとても美味しく、しかも安いという釜山という街が映画祭の魅力にもなっています。
メイン会場の野外上映ステージ。この建物『映画の殿堂』はとにかく巨大!
さて今年の収穫はというと、これは当たる! というわけではないんですが、とても素晴らしい作品がありました。観終わった後、これはアート映画の現在を切り開くような作品だ!! と心打ち震える感動。映画はここ10年ほどでフィルムからデジタルへと移行したのですが、この作品には、フィルム的なものから完全に脱却した「デジタルの美学」を見せつけられた思いがしました。アート映画館シアター・イメージフォーラムとしては絶対上映せねば! という気持ちになりました。この映画は日本に売れていると聞いたので、買い付けた配給会社に熱烈ラブコールを送ったのですが、残念ながら当館ではないところにブッキングしたと連絡をもらい意気消沈。でも日本では公開されるのでまあいいかと思い直したり。その他にも良い作品はあったのですが、これを買いに走ろう! という作品までは結局なく、次の映画祭行脚へと向かうためソウル行きの電車に乗ったのでした。
釜山からソウルへの新幹線車内。『新感染 ファイナルエクスプレス』を思い出しワクワク。
今年の釜山映画祭で一番シビれた作品『ヴィタリナ』。公開は、ユーロスペースにて2020年7月を予定。