コロナ・パンデミックのその先
2020.04.14
コロナ流行の影響ですが、私たちのミニシアター界隈にも大きな状況が広がっているので、報告をここに書いておこうと思います。
2020年1月
私が働いている映画館シアター・イメージフォーラムは、昨年から動員が好調で2020年が明けてからも、その流れは続いていました。1月25日公開の『彼らは生きていた』(監督:ピーター・ジャクソン)は、当初は満席続きでしたが、2月になって国内に感染者が出始めると、高齢者を中心に動員が下がっていった印象があります(当時若者は軽症で済むが、高齢者・持病持ちの人は危険という言説が支配的でした)。
2月
映画館では、かかっている作品によってお客さんの年齢層は異なります。上記の1月25日公開のこの作品は、第一次世界大戦の記録映像を元に制作されたドキュメンタリー映画で、最初は中高年の男性がたくさん来ていました。2月半ばになるとその年齢層が少しずつ減っていきました。この時点では、全体として通常の2割減という感があったと思います。それでも2月中は、まだまだ若い人を中心に劇場が賑わっていました。
シリア内戦についてのドキュメンタリー『娘は戦場で生まれた』(監督:ワアド・アルカティーブ+エドワード・ワッツ)が公開された2月28日時点でも、初日から数日間は、満席の回も出ていました。このように動員の出足が良い時は、お客さんの口コミなどで動員が増えていったり、好調さが維持されていったりするものです。しかし客足が落ちていくスピードがいつもよりも早く、「コロナの影響が見えてきたな」とこのあたりで実感が出てきました。当館について言えば、その2月の終わりの時点では、「通常の7割程度の入り」という印象でした。
2月28日には、神保町の老舗ミニシアター・岩波ホールが休館となったり(現在4月以降も閉じたままです)、特に年配層が中心の映画館では、営業を行わないという選択をするところも出始めていました。
当館としては、映画を観たいというお客さんがいる以上、上映の場を提供し続けていきたいという考えで、上映を継続していました。2月のこの時点の少し前あたりから、従業員のマスク着用・手洗い・うがい徹底、来場者へ消毒励行のお願いなど、劇場として対応をし始めた記録が残っています。
丁度この頃、私はドイツのベルリン映画祭(開催日:2月20日〜3月1日)に参加しています。当時は全く危機感はなく、現地ではアジアで起きている問題、くらいの認識ですべてが平常でした。中国では非常に深刻な状況になっていましたが、私たち日本人が入国拒否に遭う可能性も全くありませんでした。
3月
ドイツから帰国して、3月半ばを過ぎると、いよいよ観客数が落ちてきた感覚がありました。とはいえ、3月14日に公開されたアメリカ映画『コロンバス』(監督:コゴナダ)の動員が健闘していたこともあり、それでも全体の4割減くらいの影響という印象でした(この少し後に4月4日公開予定の8時間映画『死霊魂』(監督:ワン・ビン)を6月27日に延期することを決めました)。
この状況がガラッと変わったのは、3月26日に小池都知事の「土日の外出自粛要請」が出てから。日本最大のシネコンチェーンであるTOHOシネマズが、その週末の営業を自粛し、多くの映画館もそれに倣って週末休館・平日時短営業に切り替えました(当館を含むいくつかの劇場は土日の営業休止をしませんでした)。以降はガクッと動員は落ちて、平日になっても、毎回1ケタお客さんがいるかいないか、という状態になってしまっています。
4月〜その先へ
休館については、本当に判断が難しく・苦しいところです。映画館は通常のオフィスなどに比べて換気されている(映画館の営業許可に対して法令が厳しく、一定の基準以下でないと営業できない)という話が流行当初は出ていましたが、すでに劇場までやってくる道程も安全ではないという状態です。
正直、この小池都知事の「自粛要請」記者会見以降、その発言以上のものは映画館に対して無く、映画館の業界団体である興行組合からも指示や方向性の打ち出しがありませんでした。あくまで休館は個々の劇場の「自主判断」という状態。多くの劇場が「平日は営業して土日だけ営業自粛」という形が2週間続きました。この措置が果たして感染拡大防止という観点から有効なのかどうか、よく分かりませんでした。今回辛かったのが、緊急性の高い状態が近づいているのにもかかわらず、公的な判断が何も無く、ジリジリと状況悪化に向かっていったところです。政府や自治体の動きは置いておいても、映画界側が何もしないという状態にかなり残念な気持ちになっていました…。
映画も他の商売と同じように、そこに関わる劇場・配給・製作、そこに関わる人たちの生活の糧であり、観に来るお客さんの生活の場でもあります。これを閉じるという判断をするためには、再開も含めた、先を見据えた、前向きな方針無くしてできないのではないかと思います。
この連載では、各地の映画祭について紹介してきましたが、ここのところ世界中の映画祭が開催延期・中止になっています。映画祭は、新作映画の売買市場という機能も兼ねているので、映画祭が無くなると、これから供給される映画が無くなってしまうという問題が出てきます。映画の製作現場も、現在ほぼ止まってしまっているという状況です。この流行が収まった後も、映画産業に大きな影響を残すことになります。
幸いネット環境があるので、映画はそこで観られるという状況はあります。現にいくつかの国際映画祭は、オンライン開催に踏み切りました。上映作品をオンライン上でストリーミングするのです。しかし、それが緊急的な対応になり得ても、ネット視聴が「映画上映」そのものの代替になると私は思いません。現に一部では、こうした映画祭のオンライン化を批判する声もあります。映画祭は、作品のお披露目の場であり、本来上映のために作られた作品をオンラインで公開してしまって良いのか、映画祭が存続するための目的に作品を利用しているのではないか、と。
これを機にますますネットでの視聴が習慣化し、映画館から人が離れてしまうのではないか、という危惧も方々から聞こえてきます。しかし、一つの場に多くの人が集まって、スクリーンに映された映像を一緒に体験する、ということに対する人々の欲望は消えてしまうことはない、と私は思います(音楽ライブや演劇も然り)。むしろそうした場所を求める人々の心はこうした状況下、ますます高まっていくでしょう。
私は、映画は「体験」だと思っていますから、ネットやテレビを通した映画体験と、映画館という場所でのそれとは別のものだと考えています。このコロナ禍が落ち着いたら、「映画館という体験」を改めて十分に楽しんで欲しいです。
しかし現在は、その人の集まるということが感染を生んでしまう。そのことに対する恐怖や不安は、完全に払拭されることは無いでしょう。このコロナ以後も次のエピデミックが現れる可能性さえありえます。映画上映や映画館のこれからの形は変わっていくことになるでしょう。どのように変えていくべきなのか、パンデミック以降の映画体験はどのようなものになっていくのか…。まずはこの緊急状態をどうするか、というのが大きな課題ですが!
*この原稿を書いた直後、4月8日から5月6日まで当シアター・イメージフォーラムは休館することになりました。
休館1日目のイメージフォーラム