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映画
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オンライン・ゲスト・プログラマー

2020.11.07

 前回の投稿から随分と間があいてしまいました。みなさんいかがお過ごしでしょうか。海外の国際映画祭参加のレポート的な投稿が中心のこのブログですが、ご存知の通りコロナ状況下の現在、海外渡航は不可能。決してネタ切れというわけではなく、いくつかの映画祭にもオンライン参加していたのですが、しばらく投稿が途切れてしまいました。

 2020年秋口までの映画祭の世界的な動向について言うと、4月以降多くの映画祭が中止あるいはオンライン配信となっていましたが、大きなところではヴェネチア国際映画祭を皮切りに、この夏くらいからポツリポツリとリアル上映を行うところが出てきました(私がディレクターを務めるイメージフォーラム・フェスティバルもつい先日リアル上映で無事東京での開催を完了しました)。リアル上映を国内参加者向けに限定的に行い、同時に海外や遠くの観客向けにオンライン配信を行うハイブリッド方式の映画祭もいくつか出てきています。現在あらゆる現場に言えることなのでしょうが、映画祭もあれこれ試行錯誤しながら開催方式を工夫して映画祭や映画文化を繋いでいくことに必死になっています。

 そのような状況下、9月の上旬に昨年も参加したマレーシアのSeaShorts映画祭にゲスト・プログラマーとして、9月下旬にインドネシアのバリ短編国際映画祭ミニキノ・フィルムウィークにコンペ審査員として東京から参加しました。

 まずゲスト・プログラマーって何をしたの?ってことを説明します。映画祭では、上映する映画を選定してスケジュールを組むことを“プログラミング”と言います。通常は映画祭のスタッフがそのプログラミングを行うのですが、時々外部からプログラマーを呼んで番組選定を依頼します。そうすることで、自分たちがあまり知識の無い分野や地域の映画を、映画祭で紹介することができます。マレーシアで、日本のインディペンデント映画の最新の動向を把握するのは難しいので、今回私に声がかかったというわけです。

 そういうわけで、映画祭完全オンライン上映となった今年のSeaShorts映画祭のため、イメージフォーラム・フェスティバル2019で上映した作品から、短編映画5本を選び「Space in Between」というプログラム名をつけて映画祭に提供しました。
https://seashorts.org/special-programme-space-in-between/

中国のシェン・ジエーによるシュールなアニメーション『Splash』
Seshortsでの上映(配信)作品:1中国のシェン・ジエーによるシュールなアニメーション『Splash』

 

2フィルム撮影の温もりが印象的な日本の島田千絵美による『ちよ』
Seshortsでの上映(配信)作品:2フィルム撮影の温もりが印象的な日本の島田千絵美による『ちよ』

 

ベルギー出身日本在住監督イエルン・バンデルシュットックによるIFF2019大賞作品『Night Horse』
Seshortsでの上映(配信)作品:3 ベルギー出身日本在住監督イエルン・バンデルシュットックによるIFF2019大賞作品『Night Horse』

 

香港の都市生活におけるフラストレーションを描いたウォン・ヒューツェン『モルティザーズほど素敵なものは無い』
Seshortsでの上映(配信)作品:4香港の都市生活におけるフラストレーションを描いたウォン・ヒューツェン『モルティザーズほど素敵なものは無い』

 

作者が列車の車窓から撮った写真に写っていた家に1年後にインタビューに行く台湾作品ホアン・パンツァン『去年列車が通り過ぎた時に』
Seshortsでの上映(配信)作品:5作者が列車の車窓から撮った写真に写っていた家に1年後にインタビューに行く台湾作品ホアン・パンツァン『去年列車が通り過ぎた時に』

 

 映画祭プログラマーは上記の作品選定に加え、コロナ下でなければ、通常現地に行って作品についてイントロダクションをしたり、観客の質疑応答を受けたりします。上映された作品の作家が来場していれば、その人が上映後作品について語る時の、司会進行役をしたりします。このように5人の作家がプログラムされていても、概して映画祭は全員の渡航費宿泊費をカバーすることができず、せいぜい1人か2人来場しているくらいという状況がしばしば。それ故プログラマーが、作品が作られた文化的背景や、作家の略歴についてなど解説をしたりすることが多く、そのような役割を期待されたりします。

 一つオンライン配信の大きな利点としては、渡航・宿泊経費を一切かけずに上映された作本をつくった5人全員に対してマレーシアの当映画祭で質疑応答が可能ということがありました。そういう訳でその質疑応答のオーガナイズとモデレーターをやってくれと映画祭に頼まれました。

 映画祭としてはライブ配信しながら、観客の質問をリアルタイムで受け付けていくやり方を、もともと想定していたのですが、これが時差の問題などあり、いろいろ検討した結果、事前に私が質問者として5人にZoomインタビューを行い、その動画を映画祭に送って彼らが配信するという方式になりました。今回の5人の作家は、日本だけでなく、台北・北京・香港それぞれに在住しており、時差も微妙に違うので、一斉にせーのでマレーシアのお客さんに向けてライブ登壇というのは物理的には可能であっても、かなり調整が難しいだろうという判断でした。

 この5人にアポを取って、私が英語でインタビューしていったのですが、これがなかなか大変。時差だけなく、回線状態、ソフトウェアやハードウェアの問題などなど…。その一方で、面白い面もありました。それぞれの作家は、自分の仕事場や居住空間でインタビューを受けることが多く、彼らの背景に写っているものも含めて、その作家のキャラクター・人間性がより見えるような気がしました。リアルに映画祭に来てスクリーンの前でマイクを持って立っているより、意外にオンライン上の方が親近感がわくという感覚があり、それは発見でした。劇場という公の場で発言するのとは違って、直接パソコンをつなげて私と話しているので、より親密な、一対一で相対している感じが出てきます。作家たちも、自分の部屋のような普段慣れ親しんだ場所にいるので、そこは「ホーム感」といいますか、かなりリラックスして喋ってくれる感じで、あまり緊張せずにいろいろとオープンに話してくれるように思いました。

 しかし私としては、結局作品とインタビュー映像を送って、それでおしまい、ということだったので、どんな人が見にきてどんなことを考えたかなどということに全く触れる機会が無く、映画祭に参加している感覚はかなり薄いように感じました。やはり上映前後の直接の交流というのが映画祭の存在意義の一つでもあるので、その部分についての工夫がオンライン映画祭の継続に必要になってくるなとも思いました。

 すでにコロナ以前から、技術的に映像がほぼ全てデジタルでオンライン上で見られる現在、映画祭にわざわざ出かける必要は無いし、オンライン開催でいいのではないかという議論がありました。現状図らずも、その実験が行われているような事態になっています。

 私は改めてこのような形で参加してみて、オンラインとリアル上映は別物だという認識を改めて深めました。

 次回は審査員として同じくオンライン参加したミニキノ映画祭について書きたいと思います。

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