“インディペンデント映画配給”の今
2021.06.18
またご無沙汰してしまいました。
3度目の緊急事態宣言真っ只中、東京都内の映画館は一部を除きほぼ全てが休館中。2021年4月の終わりに、この原稿を書いています。
コロナ・パンデミックは、いまだに終わりが見えません。当シアター・イメージフォーラムは、座席数を50%に絞って営業継続しています。
とはいえ、先行きは不透明。いつまた休館しなければいけない事態が来るかも知れません。
しかしジリジリと気持ちばかり焦っていては息が詰まってしまうので、何かやらなくては!と配信番組を年初の緊急事態宣言をきっかけに始めてみました。
題して「Sign of Life: 配給さんいらっしゃい」。どれだけの人が見てくれるか分からないですが、まず始めてみることが大事だと突如スタートしました。
2021年5月のシアター・イメージフォーラム 。毎日上映続いています!
とは言いつつ、番組の内容としては以前からやってみたいなと考えていたものです。それは「映画配給会社」に公開映画を紹介してもらうこと。映画産業のエコシステムにおいて、作り手と劇場(そして観客)をつなぐ存在である「配給」はとても重要なのですが、これまでスポットライトを浴びる機会があまりありませんでした。
彼らは、映画作品を買い付け、ビジュアルイメージや邦題を決定して宣伝し、それを劇場に届ける、いわば観客の皆さんの手元に届く作品をセレクトして味付けする、という非常に大きな役割を担っています。そして「自社の商品」である公開作品について、日本で一番知識を持っている存在です。
個性的なミニシアターの番組ラインナップを作り上げているのは、彼ら配給会社であると言っても過言ではありません。そして劇場にとってみれば彼らは一心同体の存在。どちらが欠けても日本の多様な映画文化は継続できません。
特にうちがお付き合いしているようなインディペンデント系配給会社は、そこにいる方々自体も面白い。このキャラクターたちを伝える場はないだろうかなどと常々思っていました。
手掛ける映画も違えば、なぜ映画配給をやっているかの理由もそれぞれ全然違います。「映画好き」というのが共通点ではあると思いますが、中には本当に映画が好きなの?という人もいます。
コロナ以前は、劇場でトークショーをやったらどうかなどと考えていたのですが、配信なら時間も気にせず話もできるし、関東近郊だけでなく日本全国の方にも聞いてもらえるかも?むしろ今やらなくちゃ!となったわけです。
『山形ドキュメンタリー道場』という映画制作合宿で山形の肘折温泉に行きました。2月。雪の量がすごい!
すでに9回ほど配信していますので、興味を持っていただいた方はアーカイブをご覧ください(月に2回ほど配信します):https://www.youtube.com/user/imageforum
この番組では、シアター・イメージフォーラムで公開が予定されている作品について配給さんに紹介してもらっています。
しかし、それと同じくらい、あるいはそれ以上の長さで、その配給会社の紹介や、そのゲストの方がなぜ映画配給会社に入ったのかなど、その人の来歴についていろいろと話してもらっています。これがなかなかやっていて面白い。それぞれがどういう理由で映画の配給に関わるようになり、その紹介している作品を手がけるに至ったかの「物語」が見えてきて、その公開作品に愛着が湧いてきます。
新卒で映画配給会社に入った人もいますが、やはりインディペンデント系配給会社はそのような人はむしろ少数派かもしれません。
世界中を旅行した挙句、紛争地帯で「世界を変えなければいけない」という考えに至って映画配給会社を立ち上げた人もいれば、鉄道模型会社に勤めていて同僚のあまりの鉄道オタクぶりに驚き、自分もこれくらい熱中できるものをと思って映画の世界に入ってきた方、劇団の元俳優や元役人。みなさん本当にいろいろな経歴をお持ちで、色々な話が聞けます。
映画配給ってどんな仕事だろう?とか、映画配給をやってみたい、とか考えられている方がいたら、この番組は結構参考になるかも。最近は、一人で配給業務を全てこなす「一人配給会社」の人も結構出てきています。自分で監督した映画を、自らの手で配給する人もいます。
この間、会社の倉庫整理をしてました。1972年当時のポスターは圧がすごい!当時イメージフォーラムは「アンダーグラウンドセンター」という名前でした。
時代が変わり、映画の配給や宣伝の仕方が、どんどん変化しています。その最新の流れを紹介できればと考えています。劇場としては、こうした色々な人と作品ごとに付き合っていくことは、通りいっぺんにシステマチックに進めることが難しくて、手が必要以上にかかり、大変だったりします。
しかし、こうした多様な人と仕事ができるのが当館のようなインディペンデント系の強みであり、正直この仕事の一番面白いところでもあります。作品を通して普段全く接点の無い人たちと、話をしたり一緒に仕事ができたりするのです。
こうした配給会社も、このコロナ・パンデミック下において大きな危機に陥っています。劇場が休館してしまうと、配給会社の収入は完全に断たれてしまいます。劇場には幾ばくかの協力金や、前回のコラムでご紹介したミニシアター支援金などがありますが、配給会社には何もありません。
先にも書いたように、日本の多様な映画上映環境は、彼らインディペンデント配給会社が作りあげていると言っても過言ではなく、この文化が危機的な状況にあります。このトーク配信をやってみて、なんとか道を切り開こうと柔軟に熱意を持ってそれぞれ活動している配給会社の様子を改めて知り、劇場として力をもらっています。
さて、2年近く続いてきたこのコラムも、今回が最終回となりました。期せずして映画館や文化全般の存在意義が問われるような事態が訪れ、激変の日々とぶつかりました。当初は、新作映画を求めて世界を旅する「トラベローグ」というコンセプトだったはずのこのコラム。映画の見方や、新しい作品との出会い方そのものが変わってしまい、新たなコンセプトが必要になっていると改めて感じています。そういう中、何かできることはないかと、日々新たな楽しみを探しています。皆さん今までお読みいただきありがとうございました。機会があったら是非劇場にいらしてください!お待ちしております。
ビリヤニ作り継続中。炊飯器でもトライ。やや簡単ですが、水分の加減が難しいですね。