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映画
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サウナ、カラオケ、審査。タンペレ映画祭

2019.05.23

 電車を降り立つとそこはマイナス17度。冷気がチクチクと頬を刺す。寒すぎてもはや笑いがこみ上げてくる。3月にしてこの温度。やって来たのは北欧フィンランド。首都ヘルシンキから特急列車で2時間ほど北にある湖畔の街タンペレで行われたタンペレ映画祭に、5日間行ってきました。短編映画祭としてはヨーロッパ最大級の映画祭の一つ。今年で49回目の開催です。

 この映画祭には国内作品のコンペ部門、インターナショナル・コンペ部門、テーマ別プログラムと、大きく分け3つのセクションがあるのですが、その中のインターナショナル・コンペ部門という、この映画祭の顔とも言えるセクションの審査、それに加えて日本の実験映画の旧作・新作それぞれの*プログラミングをするよう頼まれたのでした。
*短編映画を選び、上映テーマや上映順を決めること

 審査対象となる作品は59本。3日間で全作品を観て、4日目にディスカッションの上、グランプリ、優秀劇映画賞、優秀ドキュメンタリー賞、優秀ドキュメンタリー映画賞にあたる作品を選んで、最終日に授賞セレモニーを行います。

 映画祭の審査員をやってくれと頼まれることがここ最近多く、年に1、2回は引き受けています。人の作品を審査するような大したものなのかよ自分は…と微妙な気持ちはありますが、映画祭を運営する側の色々な思惑や都合も分かるので、頼まれればなるべくやるようにしています(私の働いているイメージフォーラムでも映画祭を主催していて、年一回、頼む側にもなるわけですが、「私なんか審査する柄じゃないんで」と断られるのは結構つらいのです)。


インターナショナル・コンペ部門の審査員の面々

 審査員をやってみると、それはそれで面白いことが多いのも事実です。観た映画について時間をかけて真剣に議論することは、こういう仕事をしていても普段なかなかできない贅沢なことです。ほかの審査員たち(今回は4名)と一緒に同じ映画を観て、合間にご飯を食べ、色々な話をする。かなり濃密な時間を数日間共にします。仕事のバックグラウンドも生まれも育ちも全く違う人間が、ポイっと一つのチームに入れられ、合宿状態。これはかなり貴重な体験です。同じ審査員チームの人とは、その後長いお付き合いが続いたりします(今回は、映画祭後ヘルシンキに戻って深夜カラオケ大会でさらなる親交を深めました…)。


映画祭の恒例イベント、カラオケ・パーティー 

 審査の仕事はしかし、ある意味感覚的な映画体験というものについて、しっかり言葉で議論しなければいけない側面があります。自分の気に入った作品を最大限推すため、どのような言葉を駆使するか…それが一番大変です。特に私は、映画体験というものは言葉に表せないものであるはずと思っており(そもそも言葉で表せるようなものであれば、わざわざ映画にする必要もないわけです)、この言葉にしがたい体験について説明するのに大いに頭を悩まされます。
 「撮影がきれい」、「シナリオが良く出来ている」、「俳優の演技が素晴らしい」。
 「よく出来ている映画」だからといって、それが素晴らしい映画なのかというのは、また別なことなのではないかと思います。しかし、審査する場合には、そこにある程度の評価の基準というのが求められるわけで、「なんか面白かったから」ということでは通じない。さらに文化のギャップや、言葉の壁もあります。映画をどういうものとして捉えるか、そういったことも問われてきます。

 今回のタンペレは正直かなりその部分で難儀しましたが、最高賞のグランプリが全員一致で決まったことは大変良かったことでした。『Dulce』というコロンビアのマングローブ林に住む少女と母の関係を描いた短編ドキュメンタリー。泣きながら泳ぎの練習をする娘を教える母親の突き放すような厳しさと、その娘を見つめる眼差しの優しさに、審査員全員の心が鷲掴みにされました。


グランプリ作品『Dulce』監督:ギジェ・イサ+アンジェロ・ファッチーニ

 授賞作の発表も映画祭の大きなイベントではありますが、何と言ってもタンペレ映画祭の名物はサウナ! 映画祭のオフィシャル・イベントとしてサウナ・パーティーが行われているのです。このパーティーに参加せずしてこの映画祭を経験したというなかれと言われ、そういうことならと参加してきました。タンペレ市内から車で30分ほど行った郊外にある、昔ながらの伝統的サウナは、岩を薪で熱し、その余熱で暖める方式。サウナ小屋は湖のほとりにあり、熱く火照った体をボチャンと凍てつく湖に浸かって冷やすという、かなり野性味溢れる仕様です。全裸のおじさんたちが十数人、キャッキャッとはしゃぐ。暗闇の中、真っ白な体が月明かりを浴びてぼうっと浮かびあがる光景は、まるで妖精たちが戯れているような幻想的なものでした(実際はビールを飲みいい気分の全裸のおっさんたち)。


魚卵とサワークリームで食べるパンケーキが美味しかった 

 その帰国後わずか1週間。今度は常夏のフィリピン・マニラに行ってきました。寒暖差が激しすぎるレポートはまた次回!

*イメージフォーラム上映情報
ロスト ロスト ロスト ジョナス・メカス追悼上映 Jonas Mekas: Lost Lost Lost
上映日程: 5月18日〜6月14日

“わたしたちの仕事、つまり現状において一番重要な仕事は、自分自身だ。私たちこそが全てに対する基準なのだ。そして私たちの生み出すものや芸術の美しさは、私たち自身の美しさ、魂の美しさに比例する。” −ジョナス・メカス

2019年1月23日、映画作家・詩人、アメリカのカウンターカルチャーの英雄ジョナス・メカスが亡くなった。ソ連とナチスに故郷リトアニアを追われ、アメリカに亡命したメカスは、言葉の通じないその地で16ミリカメラを手に入れ、やがて“本物”の映画を撮るための練習として、日々の出来事のスケッチとしてそのカメラで少しずつ撮影を積み重ねていった・・・。絶望の中、新たな土地に必死に根を張り、改めて記憶を紡ぎなおそうとする難民、メカスの試み、そして育ちつつある50年代ニューヨークのカウンターカルチャーが描かれる。日記映画の金字塔『ロスト ロスト ロスト』、初の日本語字幕付きで上映。

[A]=『ロスト ロスト ロスト』
[B]=『ウォールデン』
[C]=『リトアニアへの旅の追憶』
[D]=『営倉』

5/18(土)〜5/24(金)=11:40[A]/15:15[B]/18:45[C]
5/25(土)〜5/31(金)=11:40[B]/15:15[A]/18:45[D]
6/01(土)〜6/07(金)=13:00[C]/15:00[B]/18:30[A]
6/08(土)〜6/14(金)=13:00[C]/15:00[A]/18:30[D]

料金:一般1,500円/学生・シニア・会員1,100円
ゲストによるトークショー決定!

★5/18(土)11:40「ロスト ロスト ロスト」上映後/ゲスト:飯村昭子さん(翻訳家) /先着で来場者プレゼント有
★5/25(土)15:15「ロスト ロスト ロスト」上映後/ゲスト:西嶋憲生さん(映像研究者)

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