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映画
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中国・in広州。観せたいと観たいの力

2019.09.25

5月、中国広州にある美術館タイムズ・ミュージアムに上映とレクチャーをやって欲しいと誘われ、日本の映像作家の方たちと行ってきました。

中国における映画産業の規模は、今や北米に次いで世界2位の興行収入、スクリーン数は全国で6万(!)と、もはや日本とは比較すべくも無い(ちなみに日本のスクリーン数は全国合計で3千5百ほど)巨大さ。しかしその上映環境はかなり特殊です。

中国には厳格な検閲制度があり、映画館では国家の映画局が審査して許可したものしか上映されません。その「厳格さ」はその時代の政治状況諸々によって変わっていくのですが、昨今とてもその「厳格さ」の度合いが高まっています。ちなみに意外と知らない人が多いので書いておくと、日本には国による検閲制度はありません。みなさんが聞いたことあるかも知れない「映倫」は、国ではなく、映画館による自主規制のための組織です。日本では「表現の自由」は少なくとも建前上は守られていて、中国には「表現の自由」は無い、ということになります。インターネットに話題を広げると、例えば「Google」は使用禁止。検索する時は、中国独自のエンジンを使わなければなりません。検索NGワードも数多くあります。

そういう状況なので、いわゆるアート映画や個人制作の映像作品は、中国ではほとんど上映不可能なのです。つい最近までは小規模な人数や、美術館など映画館でないスペースでの上映はスルーされていたのですが、それが近年どんどん厳しくなっています。2000年代に生まれたアート系のインディペンデント映画祭やドキュメンタリー映画祭も、現在はそのほとんどが継続できなくなっている状態です。


タイムズ・ミュージアム入口。美術館は高級マンションに併設されています

しかし、そのように強力にコントロールされていても、政府のお墨付きを与えられたもの以外のものを観たいという、人々の気持ちを消し去ってしまうことはできません。今回私が呼ばれた美術館での上映も、そういった試みの一環になるといえます。美術館の一角のレクチャースペースで、「参考上映付きの講演」という形で開催されました。2日間にわたったイベントは満席になるほどの盛況ぶり。観客からの質問も熱いものばかりでした。驚いたのは、上記のような状況にかかわらず、お客さんの映画の知識がめちゃくちゃあること。なんだかんだ言って工夫すればいろいろな作品が観られるのでしょうか。


上映は満員御礼

今回の滞在中、他に訪れた場所として面白かったのは同じ広州にあるVideo Bereauというスペースです。そこにはいろいろなアーティストの映像作品DVDが、棚にずらっと並んでいて、来場者はそれを手にとってブースで作品を視聴できます。つまり検閲を通っていない作品でも、「上映」や「展示」ではないので、来場者は直接手にとってブースで再生することで鑑賞することができるのです。考えたなー…これは賢い!と思いました。これらの作品は、ネット上でも規制されて観ることができません。ネットから切り離されたオフラインの状態で、その場に足を運ぶからこそ作品を観ることができるという、何だかその工夫が大変面白く、すごく刺激を受けました。


広州旧市街、こういう食べ物屋さんが並ぶ一角にVideo Bureauがありました

たとえ際どい内容でも、自由に作品が作れて、それを自由に観たい人が観られるという状況がもちろん一番良いのですが、一方で検閲や政治的なプレッシャーが作品作りのバネになるようなことが多々あるように私は思います。例えば「〜について語ってはいけない」というような抑圧があって、作家がそれについてどうしても表現したい時には、直接的に内容に触れないようにしながら、隠喩や暗喩その他様々な手法を用いて、大いに工夫しそれを伝えようとします。それが表現を面白くすることがあるのです。

何が言いたいかというと、こういった状況下にある中国には、伝えようとするエネルギーに満ちた強烈な作品が今後どんどん出てくるのではないかということ。現在の中国の予算をかけた商業作品は正直あまり面白いものがないと私は思っていますが、インディペンデントの領域は目が離せないと考えています。

 

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