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BEAUTY AWAKE

Double 総店長 根本貴司/TAKASHI NEMOTO

STYLIST’S VIEW

 
 
 明るくて可愛くてハッピーなものがいいとされるような今の空気の中でも、僕はヘアスタイルをつくるとき、すべてを思いっきりハッピーにはしません。
では、すべてを逆にするかというと、それも違います。絵でも写真でも、明るい部分と影のコントラストがある。くっきりと立ち上がっているものは、それだけで成り立っているのではありません。
陰影があるからこそ成立するし、どこまでも深く暗く見えるのは、光があるから。僕がヘアスタイルで表現したいのはそこなんです。

透明な影を足して
女性の美しさに
奥行きをつくりたい
 光と影の両方があるからお互いがきわだつけれど、両極端を無理やり目の前にいる女性に押し込めるのではありません。どこかひとさじ影を足したり、その人が本来持っている影を残したりしています。他の人には見えないかもしれないし、お客さま本人も気づかないかもしれないけれど、僕が感じる透明な影を足すのです。
 人は、ときに明るい表情もすれば、ときに寂しい表情もする。だから僕は、あえて寂しい部分を隠すのではなくて、そこはそこで美しく見せたい。華やかで底抜けに明るい部分だけを前面に出すのではなくて、そこに潜んでいる寂しさも消してしまわない。そうすることで、寂しい顔と笑顔の振り幅が大きくなって、その人自身の美しさに奥行きが生まれる。
 お客さまがセット面にいるときに僕は、どれだけ素の笑顔が見られるかがカギだと思っています。表情を作ることができる女性って、実は多い。だからセット面を離れて、お客さまが一人になったときに、どんな表情をしているかを見逃さないようにしています。ふと気が抜けた瞬間にその人の隠れた美しさが出たりするから。
 デザインや形はもちろんですが、僕が大切にしたいのは、人が持っているそういった「間」の部分なのです。
 今回のモデルさんは、職業柄、さまざまな制約があって、ずっとロングをキープしていたけれど、丁寧に耳を傾けていたら、実はロングである必要がない気がしてきたので、このスタイルを提案しました。
 美容師ってお客さまの本来のリクエストと異なったスタイルを提供してもサロンに滞在中にはいくらでも説得することができる。でも女性って、帰宅して自分の子どもとかパートナーとか、その人の一番身近な存在の、その人の一番好きな人たちからの反応がよくないと、一瞬で、180度気分が変わってしまう。だから、丁寧にその人との「間」を計って、スタイルを提案していかないとだめなんですね。今回も、まずは長さ、次に重さや軽さ、バランス、最後に前髪という順番で、彼女との「間」を確かめながら切っていきました。

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AFTER THE BEAUTY AWAKE

 カウンセリングをして希望どおりに変えてあげたいといつも思っています。その一方で、僕は自分の提案でヘアスタイルを変えてあげたいとも思っています。
 リクエストに応えたい。カットして新しい美しさを教えたい。そして僕自身が思う「いいもの」をつくりたい。
 このせめぎ合いが美容師の仕事だと思っています。だから、切っているときはいろいろなことを考えるし、難しい。でもそこが、楽しいんですよね。

 

根本貴司   Double/DoubleSONS 
クリエイティブディレクター

福島県出身 詳しいプロフィールはこちら

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