STYLIST’S VIEW
スタイリストデビューをして20年が過ぎました。今やっと、自分が思うとおりに髪を動かせるようになったなと思うんです。本当に“操れる“ようになるのには20年はかかるものなんだなと実感していて、そこからがスタート。自分がかわいいと思う髪の動きや形を正確に狙えるようになって、やっと自由にデザインができるようになったと感じているところです。
“心に響くシンプル”
を追い求めて
を追い求めて
tenderをオープンする前は、HEARTS(現Double)に勤めていました。HEARTSは代表の山下(浩二さん)を筆頭に、サロンワークだけでなく美容師向けの雑誌やセミナー、ショーでも活躍する人材を大勢擁していました。そんな一見華やかな環境ですが、そこで学んだのはいちばんの核はお客さまだということでした。美容師になるときは「自分を表現したい」と多かれ少なかれ思うものですが、美容師として大切なのは自分を信頼して来てくださるお客さまを一対一で見つめること。それが、「デザイン集団」の中で学んだ最も大切なことです。
ファッションのモードシーンと同じように、美容業界向けのヘアデザインはより先鋭的な感覚を求められます。その中において、個性豊かな仲間に囲まれて過ごした若手時代、僕のヘアデザインはかなり“普通“でした。やや乱暴な表現になりますが、「業界向け」のデザインは得意ではなかったんです。だから、「消費者向け」のヘアカタログなどのクリエイティブワークを任されることが多くなっていきました。
最初のうちは、そんな自分の色を変えたいともがいたこともありました。ですが次第に、自分が任された“役割“の中でいい仕事をしていこうという姿勢になっていきました。一回一回の依頼に、自分が心から「いい」と思うヘアデザインで応えていこうと。
最初のうちは、そんな自分の色を変えたいともがいたこともありました。ですが次第に、自分が任された“役割“の中でいい仕事をしていこうという姿勢になっていきました。一回一回の依頼に、自分が心から「いい」と思うヘアデザインで応えていこうと。
そんなあるとき、ヘアカタログで僕の作品を大きく掲載されたことがありました。そのこと自体も嬉しかったんですが、それを見て山下が「(あのヘアスタイル)よかったじゃん」と声をかけてくれて。呼ばれて雑誌を開かれたとき、僕は怒られると思ったんですけど(笑)。自分がいいと思ってつくったものを認めてもらえた気がして、自信を持てたきっかけになりました。
また、そののちHEARTS(現Double)の店長になったことが、ヘアデザイナーとしての転機にもなりました。当時グループの中でも特に個性的だったメンバーを集められ、その中でいちばん “普通“な僕が店長に。そのメンバーの中から独立する人も出てきて、いよいよ僕もセミナーやショーの仕事をするようになりました。「『HEARTS普通だな』って思われないようにしたい」そんな思いでした。どうやって“普通“洗練させて、いいものをめざすか。より一層、自分の持ち味に向き合うようになりました。
それがちょうど世間で「ノームコア」という言葉がはやった時期だったこともあり、ド派手で個性的じゃなくてもハッとするようなものをつくろうという僕の姿勢が、ヘアモードのシーンでも認めてもらえるようになりました。
それがちょうど世間で「ノームコア」という言葉がはやった時期だったこともあり、ド派手で個性的じゃなくてもハッとするようなものをつくろうという僕の姿勢が、ヘアモードのシーンでも認めてもらえるようになりました。
“普通っぽい“けどかわいい。そんな僕らしさは、つまりどういうことなのか。シンプルなものこそ、難しくて奥深いと思うんです。シンプルだからこそ細部の粗さが目立ってしまうし、かといってきれいなだけでも面白くない。ちょっと粗いからいいんだよ、みたいなデザインもあります。
そのバランスは、音楽と似ています。ギミック的な難しさだけが詰まった曲は、完成度が高くてもとっつきにくくて多くの人に親しんでもらいにくい側面があります。広く愛される名盤は、みんなが口ずさみやすいメロディやシンプルな旋律の中に強い意志が一本通っていますよね。
髪もそれと同じ。その人に似合っていてフィット感がある上で、何か強い意志を一本通す。シルエットなのか前髪なのか、質感なのか……。そのアクセントがちょうど適量に加えられたヘアデザインが、“洗練されたシンプル“と“単なる普通“の違いだと思っています。
今回のモデルさんは明るめのヘアカラーをしたことがないと言っていて。パーマなど、形の主張が強いヘアも似合いそうだとは思ったんですが、ショート&ハイトーンで潔くいくことにしました。ブリーチで抜いたまま色みを足さずシンプルに、それでいて印象の変化を楽しんでもらえるデザインになったと思います。
そのバランスは、音楽と似ています。ギミック的な難しさだけが詰まった曲は、完成度が高くてもとっつきにくくて多くの人に親しんでもらいにくい側面があります。広く愛される名盤は、みんなが口ずさみやすいメロディやシンプルな旋律の中に強い意志が一本通っていますよね。
髪もそれと同じ。その人に似合っていてフィット感がある上で、何か強い意志を一本通す。シルエットなのか前髪なのか、質感なのか……。そのアクセントがちょうど適量に加えられたヘアデザインが、“洗練されたシンプル“と“単なる普通“の違いだと思っています。
今回のモデルさんは明るめのヘアカラーをしたことがないと言っていて。パーマなど、形の主張が強いヘアも似合いそうだとは思ったんですが、ショート&ハイトーンで潔くいくことにしました。ブリーチで抜いたまま色みを足さずシンプルに、それでいて印象の変化を楽しんでもらえるデザインになったと思います。
冒頭、やっと自由にデザインを楽しめるようになってきたと言いましたが、ヘアデザインすることは単に楽しいのではなくて、基本的には悔しさと対峙してうまくなっていくものだと思います。日々お客さまに向き合いながらも、もっとうまい人が担当したほうがもっと似合って扱いやすくなったんじゃないか……と、若いころは毎日悔しい思いをしてきました。
でも、美容師はうまくなりさえすればお客さまをかわいくできて、喜んでもらえる仕事。長く頑張ってスキルを磨いた分だけ喜びややりがいが保障されている仕事って、意外と少ないんじゃないかと思うんですね。
お客さまとともに歳を重ねて、そのお子さんも大人になって……。いろいろな人と話すことで関係が築けて、自分の長年頑張った技術で素敵にしてあげられる美容師という仕事。髪を通してやっとみんなをかわいくできるという自信がついた今、ますます美容師が楽しいです。
でも、美容師はうまくなりさえすればお客さまをかわいくできて、喜んでもらえる仕事。長く頑張ってスキルを磨いた分だけ喜びややりがいが保障されている仕事って、意外と少ないんじゃないかと思うんですね。
お客さまとともに歳を重ねて、そのお子さんも大人になって……。いろいろな人と話すことで関係が築けて、自分の長年頑張った技術で素敵にしてあげられる美容師という仕事。髪を通してやっとみんなをかわいくできるという自信がついた今、ますます美容師が楽しいです。
HAIR STYLE
AFTER THE BEAUTY AWAKE
20年もやっているとお客さまの世代も幅広くなるし、こういった撮影のモデルさんともスタッフとも世代がかなり離れてきますが……。ジェネレーションギャップとかは感じません。というか、若い人をわかろうなんて少しも思っていない(笑)。世代が違っても信念やパワーがある人って惹かれますよね。「このおじさん面白いな」と思ってもらえるような強い意志をこれからも持ち続けて、楽しみたいなと思います!
髙田昌宏
tender 代表