LIKE IT! HAIR CATALOG JP THE ERCOMMENDED Vol.16 IMAGE FORUM
Doubleのスタイリスト内田由美さんが「LIKE IT!」に選んだのは東京・青山にあるイメージフォーラム。映画プログラマーとして、またキュレーターとして活躍する山下さんを訪ね、映画談議に花を咲かせました。
いつのころからか「映画」は、私の中で大切なものになりました。お客さまとの共通の話題になるだけでなく、作品づくりのアイデアやふだんのサロンワークでつくるヘアスタイルのイメージソースとして「映画」には、たくさんのヒントが詰まっているのです。
時間を見つければ映画情報をチェックして、気になると時間を見つけて観に行って……を繰り返していく中で、自分が気になる「映画」がイメージフォーラムで上映されていることが多いことに気づいたのは、ここ数年。どのようにして上映作品を選んでいるのかなど、いつかお聞きしたいと思っていました。
今回、お話を聞かせてくださったのは、歴史のあるイメージフォーラムでキュレーターとして活躍する山下さん。歩く映画事典のような山下さんにいろいろ質問をぶつけてみました。
山下宏洋さんイメージフォーラム キュレーター・映画プログラマー
学生時代からイメージフォーラムと関わり、自身もイメージフォーラムで開催されたワークショップの卒業生。2001年よりイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務め、映画館シアター・イメージフォーラムでは2005年より番組編成を担当。カンヌ監督週間、 ロッテルダム国際映画祭、香港国際映画祭など世界各地の国際映画祭などを飛び回り、審査員を務めるだけでなく、配給の権利獲得など「新しい映画体験」のチャンス拡大に精力的に活動中。
過去に何度もイメージフォーラムで映画を鑑賞しているのですが、他の映画館とは違った印象を受けています。個性あふれる作品ばかりが上映されるているような(笑)。そもそもイメージフォーラムという名は、どんな思いからつけられているのでしょうか?
「もともとは個人の映像作家たちが自分たちの作品を上映しようと非営利で集った組織が母体で、イメージフォーラムとしては1977年にスタートしています。当初は、BARとか卓球場などいろいろなところで映像と人が出会う場をつくっていたようです。その後、しだいに配給などにも活動を広げていって、ここ自体は2000年に映画館を併設した”映像の広場”としてオープンしました。今、お話ししているイメージフォーラムビルの3階のこの部屋は映像研究などをする場で『寺山修司』という名前がついているんですよ。上映する作品は、設立当初の思いを大切にしながら、制約を設けずに、新たな映画体験ができるものを積極的に選んでいます」
研究所に「寺山修司」と名づけるなんてすごいですね。そもそも山下さんとイメージフォーラムの出会い、映画に関わる仕事につこうと思ったきっかけは、何だったのですか?
「学生時代、アルバイトで通い始めて、ワークショップにも参加して、上映会などの手伝いをしているうちに『映画でしかできない体験がある』ということに気づいてしまったのですね(笑)。映画ってなんだろう?とか映画の制約を考えたりしているうちに、イメージフォーラムの魅力にハマってしまったのです」
今、お話に出ましたけれど、山下さんは映画って何だと思いますか?
「難しい質問ですね。エンターテインメントとして制作された『消費物』としての映画も好きですけれど、それとは別に商業ベースにはなかなか乗らないような、作家の個性とかこだわりが詰まった作品にも惹かれます。映画を観終わったあとに『ワケがわからない』と思うときがありますよね? では、そういう映画はおもしろくないかというと、そうではない。むしろ、そういう映画こそおもしろいと思うのです」
説明するのが難しいけれど、確かにいい作品っていっぱいあります!
「何がおもしろいのかを言語化できない。でも、それこそが映画の持つ力のような気もしています。学生のころに3本立てで映画を観て、1本目が『戦争のない20日間』だったのですが、3本目まで見終わって、また1本目のこの映画を見たのです。なぜかといえば、2本目を見ているときも3本目を見ているときも、1本目が心から離れなかったから。結局、もう一度観て、ではおもしろさを説明しろと言われるとできないのだけれど(笑)……。アンドレイ・タルコフスキーが監督した『鏡』もその魅力を言語化するのが難しい作品です。具体的な物語があるわけではないのに映像を浴びる気持ちよさがあって、それは画面から圧力を感じるほど。だから映画とは?と問われると、言葉にはしにくいですね。僕は、映画祭などで行ったことのない国に行くと、その地元の映画館で映画を観ます。街の中で雑多な人と一緒に映画を観る。そうするとその街に少し溶け込んだ気になれる。そんなところも映画の力かもしれません」
キュレーターという職業柄、多くの映画を観られていると思いますが、個人的にお気に入りのジャンルや注目している国などはありますか?
「もともと映画が好きでこの世界に入っているので、縁があるものはなんでも観ていますね。好きかどうか?という自分の先入観で選ぶこともあれば、その先入観すら疑って観ることもある。これは絶対おもしろそうだと思って当たる場合もあれば、これはいかがかな?と思いながら観たあとに忘れられない作品との出会いになっていることもある。だから好きなジャンルを特定するのは難しいですね。ホラーも好きだしドキュメンタリーも好きだしアクションも好きだし(笑)。国でいうと、南米の映画が元気だなと最近感じます。政治的な背景などもあるのでしょうけれど、例えば前は年に3本ぐらいしか製作されていなかった国でも、最近は多くの作品が生み出されています。あとは中国。7月23日からシアター・イメージフォーラムでも上映するのですが『ラサへの歩き方』は、とても興味深い作品です」
今は、映画館に足を運ばなくても配信サイトで簡単に手軽に映像作品を観ることができます。映画館は今後、どのようになっていくと思いますか?
「1960年につくられたペーター・クーベルカ監督の『アーヌルフ・ライナー』という作品があるのですが、これは白と黒のコマだけで構成されていて明滅のパターンがリズムのようになっています。物語があるわけでもないし、登場人物がいるわけでもない。でも観ているうちに身体が乗ってくる感覚があります。先ほどの『映画って何?』という問いと重なってきますけれど、白黒の点滅の繰り返しも映画という時間芸術の表現のひとつ。とはいえ、この映画を初めて観たのがDVDだったら、僕は途中で消してしまっていたかもしれない(笑)。でも映画館だと半ば強制的に席に座って映像を浴びる。すると観終わったあとに、えも言われぬ感動がある。シャロン・ロックハート監督の『GOSHOGAOKA』という作品も、茨城県守谷市立御所ヶ丘中学校女子バスケットボール部のトレーニングを撮影しただけのようなものなのだけれど、これもまた時間を拘束されて観ることで、観終わったあとにいろいろな思考が刺激される。そういう意味では、映画館で映画を観るという時空の拘束によってでしか得られないものがある。自分の内側から映像作品を貪るように摂取しようとする働きが生まれる。だからスマホとかタブレットとか、デスクトップとかテレビでは体験できないものが映画館にあって、今後映画館はより映画館らしく生きていくのではないかな?と思っています」
美容師の仕事は髪型をつくることであり、接客業でもあり……いろいろな側面があるのですが、そんな美容師にオススメの作品があったら教えてください。
「僕は、映画は観る人によって成立すると思っていて、観る側が映画に自分を投影するようなところがあるように感じています。同じ映画でも観る人が変われば違うものになるでしょうし、同じ人でも観るときが変われば観方が変わる。だから美容師さんにどんな映画がいいか、とても未知数ですけれど、7月9日から上映する『カンパイ!』は、日本酒造りを題材にした映画なのでモノづくりというところで、世界は違っても共通することがあるように思います。それから今、僕が髪型と聞いて思いついたのは、ジョン・カサヴェテス監督の『グロリア』。登場人物に6歳のフィルという男の子がいるのですが、その髪型が昔観たときから、やたら気になっています。真似したいくらい。ぜひ見てみてください」
理解を超えた体験、そしてその興奮度を上げたければ、
いざイメージフォーラムへ!
シアター・イメージフォーラム
住所:東京都渋谷区渋谷2-10-2
TEL:03-5766-0114
http://www.imageforum.co.jp/theatre/
◯作家性、芸術性、創造性の高い映像作品を世界中から集めて上映する日本最大規模の映像フェスティバル「イメージフォーラム・フェスティバル2016」は残すところ横浜会場のみ。7月16日、17日、18日に横浜美術館で開催!
http://imageforumfestival.com/2016/
◯映像をつくる側に興味を持った人にうれしいニュース!
イメージフォーラム映像研究所が今年もサマースクールを開講。
詳しくはこちらへ。
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