LIKE IT! HAIR CATALOG JP THE ERCOMMENDED Vol.18 千鳥 UTSUWA GALLERY
HEAVENSのスタイリスト・親富祖 泉さんの「LIKE IT!」スポット は、
印刷所をリノベーションした築50年以上を越える古めかしいビルの中にある器屋さん
「千鳥 UTSUWA GALLERY」。そんな異空間で繰り広げられるのは、
オーナーであり、料理家の柳田栄萬さんとの器をめぐるお話です。
ギャップの先に広がる異空間で
日常が素敵に変わる“器”に出会う
千鳥に出会って、水道橋のイメージが変わったんです! こんな素敵なお店があるんだなって。
「ギャップはあるようですね。ビルも古いですし、勇気を出して階段を上って、ドアを開けると違った雰囲気の空間があるということで、そのギャップが楽しいと言ってくださるお客さまは多いですね」
このような特別な立地ですと、やはりお客さまは紹介が多いのですか?
「8年前にオープンしたときは、私がやっていた料理ブログの読者が100%という感じでした。その後は口コミでお客さまが増えていったという感じです」
つながりが生む空間演出
こちらのお店は器はもちろんなのですが、飾られているお花も毎回とても素晴らしくて感動しているんです。
「店内の手前半分が個展スペースになっていまして、個展開催中は必ずプロの方に生けていただいています。いつも上野雄次さんにお願いしているのですが、大胆な生け方がとても魅力のある方です。そして、個展が終わり残ったお花はドライになるので、ドライになったものを、奥半分のスペースに私が飾っております。MADE IN 千鳥のドライフラワーです。私がドライフラワーを作っていることを知っている器作家のお母さまが栽培されたお花を送ってくださったこともあります」
そうやってつながっていくのですね。
「ありがたいですね」
こちらでは個人の作家さんの作品のみを置いていられるようですが、作家さん選びのポイントというのは?
「ピンとくるかどうかですね。器とひとことで言ってもいろいろな器があって、たとえばすごく個性があって面白いけれども、実際使うのには不向きなものですとか。うちは食器屋として営業しているので、まずは食器としてちゃんと使えるものということ。そして次に個性という点で選んでいます。で、やはりグッとくるかどうか大切にしています」
お料理を盛ったときの美しさという点も大切ですか?
「そう、そうなんです。やはり、料理ありきですね。器を扱ってはいますけれど、主役はやはり料理だと考えています」
柳田栄萬(やなぎだ・えいまん)さん
料理家/千鳥 UTSUWA GALLERYオーナー
アパレルメーカーに勤務後、国立北京中医薬大学日本校にて薬膳を学び、国際中医薬膳師の資格を取得。薬膳料理教室の講師として活躍の後、2008年千鳥 UTSUWA GALLERYをオープン。
器は道具。毎日使わないともったいない
私は(ふるさとである)沖縄のやちむんが好きで集めているんです。いいものに触れさせたいと思って子どもにも使わせているのですが、どうしても壊してしまうんです。また、重すぎると自分も扱いにくいです。量産品だとそういう点では使いやすい。そうすると、高価な器ってもったいないのかもと思った時期もあったのですが、集めだすとやはり楽しくなってしまって。だから割れたら、もうしょうがない。新しい器を買えるスペースができたという喜びにすることにしています。そうやって使っていると、子どもが自分の好きな食器を持ってくるようになって。危なっかしくてハラハラしながらも自由にさせていると、「フルーツにはこれが合う!」 なんて自分で盛りつけを楽しんでくれるようになったんです。
「いいですね。素晴らしい考え方ですね!」
使わないと楽しくないですし、逆にもったいないですよね。
「やはり、使わないともったいないと思います。飾って楽しむという考え方もありますけれど、器は道具なので食器棚にしまっておくだけというのは、いちばんもったいないこと。ぜひ使ってほしいですね。たとえ割れたり欠けたりしても、お子さんへの教育としてそれ以上の価値があると思います。雑に使うと割れてしまうということを教えるのも、教育だと思いますし。
今はあまりないですが、昔の日本にはハレの日とケの日がありまして、お祝いや特別な日だけ使うハレの日の器というのがあったように、本当に大切な器は、普段は使わず特別な日に使うものだということをお子さんに伝えてもいいと思いますよ」
プロの作家とはぎりぎりのところを狙うもの
この質問が適切がどうかわからないですが、今100円ショップでもなかなかいい器が買えますよね? 一方作家さんが丁寧につくったこだわりの器がある。人によってはその違いが見えない方もいる中、自分が好きな器を集めたりしていることって、もしかして自分は買い物が下手なのかしら? など、立ち止まってしまうときもあるんです。柳田さんが思う作家ものと量産品とのいちばんの違いって何なのでしょうか?
「作家ものと量産品のいちばんの違いは、原料ですね。量産品には量産品をつくるのに適した制作過程の効率のよさを第一に考えた原料が使われています。だからこそ、のぺっとした情緒に欠ける均一な表情のできあがりとなります。どんなに雰囲気を真似しても原料に力がないので、どうやっても心に響くような焼き上がりにはならないんですよね。個人の作家というのは、まずこういうものをつくりたい。こういう焼き上がりにしたいというところから、そこに合う原料を探したり、調達したり、自分でブレンドしたりします。ですので、非常につくりづらいんですよ。失敗する確率も非常に高いです。作家さんは、そんなふうにぎりぎりのところを狙っているから、その作品にはいい表情があるのです」
いいものを毎日使ってみて、お料理をのせてみる。自分で毎日器を見ていないと気がつかないことなのかもしれないですね。
「そうですね。器にお金をかけている人って、ほんのわずかだと思うんです。言い換えると、うちに来て器を買ってくださる方ってすごいと思うんです。だって高いじゃないですか(笑)。実は、作家からしたら安い値段なのですが、作家ってみんな貧乏で、買ってもらえるぎりぎりの値段をつけていますので。ですから私たちから見ると安いのですが、お客さまから見たらきっと高いものです。ほかにも欲しいものはいくらでもあるだろうに、よくこういうものを買ってくださるなぁと不思議なくらいなんです。それでも器にこだわって生活している方って、毎日のことだからこそ、何か差が出てくると思います。それは、心のありようかもしれませんし、どこかに違いが出てくると思います」
作家にも選ばれる意識を持って
(他に店舗も多くない)水道橋までわざわざ来て、キレイとは呼べない古めかしいビルの階段を上がり、勇気を出して異空間へのドアを開け、高価な器を買う。それをさせる力は何だと思われますか?
「作家ががんばっていいものをつくっている。それに尽きると思います。そして、作家の器にもいろいろなものがあるのですが、いいものだけを選んでいるという点でしょうか?」
そうですよね。でも私は、やはりこの空間だと思います。また来たいという気持ちになりますし、もし自分が作家だったとしたら、柳田さんに選んでいただけること、この空間に作品を置いてもらえることが、すごい自信になると思います。
「そう思っていただける器屋でありたいですね。ありがとうございます。お客さまもそうですが、作家にも選ばれるお店でありたいと思っています」
陶芸って、趣味としても今人気がありますよね。趣味と作家の境目ってどこにあるのだと思われますか?
「これで食っていく覚悟があるかどうかですね。やはり大変なんですよね。相当な数をつくらなくてはいけないですし、売れないといけないので。
最近は独立が早い傾向にあります。長い間修業してしまうと、技術は向上しますが、自分らしい感性がなくなってしまう場合もありますし、逆に独立が早すぎると、技術が追いつかず、感性だけになってしまう場合もある。どちらがいいかは、難しいところですよね」
時代の変化を感じながら未来と向き合う
これからお店をどのように発展させていきたいとお考えですか?
「もっと品ぞろえを豊富にしたい。在庫はあるほうだと思うのですが、こういう大きさのお皿でなどとイメージを持って来られたお客さまに対応しきれていないんですよ。それができないと負けたようで悔しいんですね(笑)。名前にはギャラリーとついていますが、個人作家の器を置く食器屋として、品ぞろえを増やしたいです。
最近は、インスタグラムから人気になった作家がけっこういるんですね。これまでは器屋なり雑誌などのプロかメディアが紹介して人気が出るというのが通常だったのですが、今は素人の方がこんな器使っていますというのを発信して人気となる形も増えています。それも時代の流れだなぁと。逆に今まで気にとめなかった器でも、素人の方が使いこなしているのを見て、こういうのもありだなと気づかされることもあります。
今は素人の方が私たちと同列で発信していく力があるので、プロとして何ができるのかがと問われているのかなと感じています。」
千鳥 UTSUWA GALLERY
住所:東京都千代田区三崎町3-10-5 第二原島ビル201A
TEL:03-6909-8631
営業時間:12:00-18:00
定休日:不定休(HPをご確認ください)
http://www.chidori.info