上原健一(以下、上原) 今回、KEEP THE FAITHというこの企画をやるにあたって、事前に編集部から「どなたとお話ししたいですか?」と何度も訊かれたんです。でも何度訊かれても、いつ訊かれても、僕は松本零士先生しか思いつかなくて(笑)。
松本零士(以下、松本) そうだったんですか(笑)。
上原 若いころ、建築の世界に行こうと思っていたこともあったので、誰か建築家さんもいいかな?とか、僕が好きな音楽をつくるミュージシャンもいいかな?とか、いろいろ思いを巡らせたんですけれど、僕に影響を与えたと断言できるのは松本零士先生の作品で……。やっぱり先生とお話ししたいと思ったんです。
松本 自分が影響を受けた存在ってありますよね。
上原 幼少期からいろいろなものに影響を受けていても、その中に「これだ!」という大きな存在がある。先生にもそんな影響を与えたものとか人はありますか?
松本 私が幼少期で強く記憶に残っているのは「くもとちゅうりっぷ」※というミュージカルアニメーションです。兵庫県明石市に住んでいた5歳のとき、姉が映画館に連れていってくれて、初めて見たアニメーション作品です。
上原 先生くらいの年齢の方が小さいころにアニメーション映画を見るというのは貴重なことだったのではないですか?
松本 そうですね。今のように身近なものではありませんでしたね。でも、あとから知って驚いたのですが、当時、手塚治虫さんもこの映画を私と同じ映画館で見ていたそうです。のちに偉大な漫画家になる中学生だった手塚さんと、幼稚園児だった私が同じ映画館で7日間しか上映されなかった同じアニメを見ていたなんて、なんともおもしろい巡り合わせだなと思っています。
上原 すごいですね。そのアニメーションが子どものころの先生に何かを刻んだのでしょうか。
松本 手塚さんとはその後もいろいろ不思議な巡り合わせがあるんですけれど、私が『漫画少年』で新人王をいただいたとき、手塚さんは審査員でした。彼はそのとき「なぜこの少年は『くもとちゅうりっぷ』みたいな漫画を描くのだろうと不思議な気がした」と言ったのですが、私はハッとしましたね。このときに初めて、自分の作品の「蜜蜂の冒険」に「くもとちゅうりっぷ」の影響があったことに気づいたのです。
上原 無意識に深く影響を受けていたんですね。