松本 子どものころの「くもとちゅうりっぷ」は夢見心地で吸い込まれるように見入って、のちに自分に影響を与えていたことがわかった映画ですけれど「影響を受けた」と自覚している映画は他にもいくつかあります。
上原 先生の描く作品は、女性がとても美しいのが印象的ですが、その女性像に影響を与えたのも映画ですか?
松本 17歳のときに見た映画「わが青春のマリアンヌ」は、私の作品、たとえば「銀河鉄道999」などに影響を与えていると思います。主演のマリアンヌ・ホルトという女優が演じた主人公マリアンヌは、少年たちにとって永遠の憧れといってもいいかもしれません。
上原 映画のタイトルと主演の女優さんの名前が一緒なのですね。
松本 この女性、もともと女優なのかと思ったら、スイスの画学生だったらしいです。美術のスタッフとして映画撮影の現場にいたら、あまりにも美しいのでヒロインに抜擢されたのだとか。
上原 マリアンヌさんが演じる、マリアンヌ!
松本 物語の舞台は、ヨーロッパのアルカディア(理想郷)と呼ばれた北ドイツのハイリゲンシュタット。原作はドイツのペーター・ド・メンデルスゾーンの『痛ましきアルカディア』です。
上原 あ! 先生の作品に「わが青春のアルカディア」がありますけれど、そのクリエイションの種は、この映画なのですね。
松本 マリアンヌさんは、当時26歳。画学生で絵を志していたところにも自分と同じものを感じて、当時17歳だった私を魅了したのです。
上原 そこから、先生の作品に描かれる年上の女性への憧れみたいなものが……。
松本 そうですね、そのあたりから生まれているのかもしれませんね(笑)。
上原 先生が描く女性は、美しいですよね。髪とボディの曲線が本当にきれいだと思います。
松本 私が漫画を仕事として描き始めたころに青年漫画雑誌が生まれたんですよ。それでヌードを描くでしょ。
上原 読者としてみれば、期待するところですよね(笑)。
松本 そう、少年漫画でも少女漫画でもないから、女性の裸を描かなきゃならない(笑)。それで、ヌードをうまくごまかさないといけないのでね、長い髪を衣装のかわりにしたんです。
上原 なるほど!
松本 私は構図の中に髪の毛を衣装として使って、要所要所を隠したわけなんですよ。そうやって「セクサロイド」も描きました。1968年に描き始めた「セクサロイド」は今も再販されていまし、電子版も出ています。そうそう「セクサロイド」は、今、アメリカから映画化の話が来ているんですよ。
上原 アメリカから映画化の話ですか!
松本 映画化の話は、他の作品にもいろいろ来ていますね。ハリウッド版のハーロックをつくりたいとか、ドイツから電話があったのはなんだったかな……(笑)。外国の方から突然電話で依頼があるんですよ。
上原 先生の作品は、いろいろな言葉に訳された海外バージョンがありますものね。そういうのを見てオファーが来るのでしょうね。