松本 創作のアイデアは、自分の体験や習慣から湧き出てくることが多いですね。極貧だった敗戦後、私は鹿児島本線のすぐそばで暮らしていました。小学校も中学校も高校も、線路のそばを歩いて通学していたんです。そして目の前を走る機関車が何の何型かっていうのをガキだから、一生懸命、みんなで語り合っていたんですよ。
上原 僕が目の前の滑走路でタッチアンドゴーを見ていたのと似ていますね。
松本 列車が轟音と汽笛を鳴らして走る姿を見ながら、私は歩調を取る号令として「ハーロック! ハーロック!」と一人でパレードしていました。
上原 実際に、近くで見ていた機関車が「銀河鉄道999」に表現され、号令は「宇宙海賊キャプテンハーロック」を生み出しているんですね。
松本 いくつか私が見てきた映画のお話もしましたが「風と共に去りぬ」も影響を受けた作品のひとつです。南北戦争で敗北した南部の貴族のお嬢さま(スカーレット)が自分の足で大地に立つ女として生きていく。戦争に負けた日本人の心に染み入るものでした。スカーレットが「I'll never be hungry again.」と言うシーンがあるんですけれど、私はそのセリフを「俺は二度と飢えない」と自分の言葉として胸に刻み込みましたね。戦勝国のアメリカの映画でそう感じたことは不思議だけれど、国境も歴史も超えて「思い」に共感できたのは幸せだと思っています。
上原 心が折れてしまいそうなときに、ぐっと耐えることができるのは、それまでに出会ったものを自分の中にきちんと財産として残しているかどうかにかかっているのかもしれませんね。
松本 「若草物語」の中にも、私が大切にしているセリフがあります。
上原 どんなセリフですか?
松本 家が凋落したときに主人公の妹が「私には小説がある、だから何も悲しくはない」と言うのですよ。そのときに私は映画を見ながら「俺には漫画がある」と思うわけです。
上原 わかる! 僕の場合だったら「僕には美容がある」と思います。
松本 上原さんは九州の人だから知っているかもしれないけれど、宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の舞台は、私が幼いころ泳いでいた場所。北九州の日明の海岸。武蔵はそこから船を出して巌流島に行くけれど、「宮本武蔵 完結篇 決闘巌流島」という映画の中で、三船敏郎演ずる武蔵が「武士の妻たるもの、主人が戦いに出るときに泣くやつがあるか」と言う場面があるんです。そこで八千草薫さん演ずるおつうが、自分のことを妻だと思ってくれていると悟るんですけど、その場面が好きでね。
上原 九州女という感じですね。
松本 私が理想とする女性は、エメラルダスやメーテル、森雪、スターシア……みんな美しくて強くて、それでいて傷ついたものを癒すときはやさしくて、大切な人を守ろうとするときは戦士のよう。この女性たちのルーツは、私が少年時代を過ごした北九州の女性たち、上原さんがおっしゃるとおり「九州女」にあると思っています。でもね、九州女って、人前では男を立てるけれど、家に帰ったら、お父ちゃんたちはみんなお母ちゃんに張り倒されているんですよ(笑)。