松本 上原さんも私も九州男児。九州男児たるもの、泣くわけにはいかない。歯を食いしばっても頑張らんといかん。いつかみちょれーですね。
上原 戦後、貧しい時期があったり、上京して仕事がなくて貧乏だった時期があったり……先生には、苦しい過去があるのに、目の前の先生はとても明るくて、愚痴を言っているイメージがありません。
松本 もともと私の家は、武家だったからね。子どもでも泣きごとを言うと怒られるわけですよ。貴様それでも男かってね。だから弱音は吐けないんですよね。ケンカして負けても負けたとは言えない。人に言いつけるのは卑怯だと思っていますから。
上原 僕は今日、お会いするまで、漫画家になられてからは順風満帆なのかと思っていました。
松本 今まで何回、何十回、クビになったかわからないですよ。おまえの連載は今月でおしまいって。
上原 先生にもそんなことがあったんですね
松本 何度も何度もそういう目に遭っていますよ。私のまわりの漫画家、今は有名な漫画家たちも、全員そういうことがありますよ。我々自由業というのはそういうものだから。いつクビが飛んでもおかしくない。だから備えがないと食いぶちがなくなる。人から金借りなきゃいけなくなくなっちゃう。
上原 美容師も同じような職業なのかもしれません。
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松本 自由業というのは儲かるときは儲かるけれど儲からないときは本当に一銭もお金が入らない。海賊と同じですよ(笑)。でも覚悟している自分がいる。
上原 覚悟がないとできないですよね。
松本 自由だけれど、そのかわり人の言うことは聞かんと。俺は俺の好きなようにやると。我々の仕事は、自由という意味でやっぱり「自由業」ですよ。でも美容師というのは、女性の要望、その他を見抜いてそれに合うものを考えなければならないから、全部が自由っていうわけではないのかな?
上原 そうですね。でもどのようにしてその要望に応えるか?は、やはり自由。
松本 こうやって上原さんの作品を拝見したり、美容師という仕事を考えてみると、美容師って楽しい仕事だね。
上原 そうなんですよ、すごくいい仕事なんですよ。髪をデザインする、それはとてもいい仕事なんです。ただ、今の時代は、安くするからということでお客さまを呼んだり、いい髪型を提供するから来ていただくのではない、他の方法が目立ってきていて。いい仕事の部分が次の世代に伝わりにくい構造になってしまっているんです。
松本 余計なことに自由を奪われてしまうのではなく、髪型をつくることを頑張ってほしいですね。
上原 ありがとうございます。僕もますます、これからも頑張っていこうと思います。