鳥羽:僕らが仕事でする撮影は、ライティングのセットを組んだりするところに面白さがあるかもしれないけれど、撮る行為自体を楽しむっていうことはあまりない。
小松:不思議なことに、僕らからするとライカはもちろん高価だし、精密機械だし、工業製品としても本当に完璧。なんだけど、写真を撮る行為としてはどこか撮り手に対して優しいんですよ。松井さんの作品を見てもそうですけど、撮る人にプレッシャーを与えないというか……。とくに最近のライカ、TLやQなんかは、一気に使いやすさとデザインの進化を感じるんだよね。
Izaki:普通だったら、たぶんM型もオートフォーカスになっているはずなんですよ。
鳥羽:でも、それを一切しないっていうのは、こだわりですよね。
Izaki:そう。
鳥羽:そこをなくしたら、たぶん大事なものを失うんでしょうね……。
小松:松井さんなんて、自分と同世代の人にライカのことを言っても理解されないでしょ?
松井:そうですね。ライカって言ってもピンときていないほうが多いですね。ちょっとカメラ好きな人なら「あぁ、ライカね」ってなるんですけど、友人たちの反応が薄いのは確か。
Izaki:プロのカメラマンさんの反応も……「仕事じゃ使えないんですよね」って必ずおっしゃる。
鳥羽:言う言う!
小松:言うよね。
鳥羽:でも、Mが出たあたりからちょいちょい使う人を見かけるようになった。ファインダーもつけられるし、昔のレンズも使えるって感じになった瞬間からですよね。
小松:僕もさすがにまだ仕事では使っていない。最近目のエイジングも感じるし、まぁQはちょうどいいなぁと思って買いましたが、やっぱり写真を撮るのが楽しくなるよね。
鳥羽:楽しいですよね! それに Qになろうが何になろうがライカレンズってやっぱスゲーなって感じずにはいられない。僕の場合は、ライカレンズを使いたいからライカを使ってるって言っても過言じゃないですね。
Izaki:それのアンサーをお教えしましょう。前にちょっとブログにも書いたんですけど、ライカのレンズをつくっている総責任者っていう人がいて、ドイツ人なんだけどね。その人と対談みたいなものをしたときに「今までつくった中での最高傑作は?」ってワクワクしながら聞いたんですよ。
小松:ライカII、いや……III……?
Izaki:そうだよね、やっぱそう思うよね。IとかIIかな?って僕も考えた。でもすっごく意外な答えが出てきて……。「Tのズミクロンだ」って言うわけ。
鳥羽:えっ!? いちばん新しいやつ?
Izaki:そう。23㎜って書いてある、20万円そこそこのあれなんだよ。「あれ、ホントにいいわぁ」って言うから僕らもポッカ〜ンですよ。だってそれは日本製だし……。「なぜですか?」って聞いたら、「設計の段階でレンズをこんなにコンパクトにできたことはない。だからいちばん素晴らしいんだ」って。彼に言わせれば、昔の、手磨きで手づくりした工芸品のようなカメラは、時間が経つとそれでしか撮れない!というような価値観が生まれてくるんだけれど、つくり手としては、最新のものがベストであってしかり!なんです。
鳥羽:美容師もそうですけど、確かにつくり手って新しいものを詰め込んで新しいことをやりたいって思うから、最新を狙っていく。研究者としての立場をとると、いちばん新しいものがいちばんいいし、今いちばん流行っているものがいちばんなのかもしれないじゃないですか? きっと、つくり手はそうじゃなきゃいけないんでしょうね。
小松:そうだろうね、当然ね。ライカっていうカメラに憧れるけど、実際、撮るのは難しい。それが面白さでもあるんだけどね。歴代の写真家たちも使っていたし、自分もそれを持つことで同じ感性を望むことができるっていうか……。最新のもので、必要以上に便利にしない。そうすることで人間の感性が保たれるのだと思うんだよね。
それって食も同じで、どこのレストランに行っても同じようなパスタ、同じようなサラダって感じの今、逆にわざわざ電車に乗って行かないと食べられないものとか、ここで食べるの? なんだこの食感? みたいな意外性に惹かれない? それなんだよ、ライカって。