第1回はこちら 「写真を撮ることを選んだ人」
第2回はこちら 「作法を必要とするカメラ」
今回の対談の紅一点、松井文氏。“ライカ女子”である彼女の存在で、かつてのライカに対するイメージに化学変化が起きつつある。そう、新しいライカスタイルの扉が開く。
Izaki:松井さんは、SNSでとんでもない人気なんですよ! 今やマップカメラや蔦屋家電なんかでのイベントのオファーが絶えないくらい。インスタグラムを始めたら、たった1カ月くらいでフォロワーが1万人になったんだよね。
鳥羽:それくらいみんな本当はカメラやライカに興味があったってことですよね。
Izaki:イベントに来てくれる人たちの話を聞いたときに、みんな面白いことを言うんですよ。「このカメラ100万円したんだよね」って言うと、家族からは間違いなく「バッカじゃないの!」って非難されるところだけど、松井さんなら、「えーっ、すごいの買ったんだね」って言ってもらえるんじゃないかってね。
鳥羽:もう、アイドルじゃないですか(笑)。
Izaki:そう、ライカに淡い夢を持っている人たちの憧れ。
鳥羽:仮にイベントで「ライカいいですよ」って発信したら……写真好きのおじさんはもちろん、一眼レフ抱えているようなカメラ女子たちまでもが、松井さんを見てこれまでのカメラにない感情を抱くんじゃないかな。
小松:そうでしょ。でも、そのカメラ女子たちに、松井さんってどういうふうに映るのかな?
鳥羽:今、女子向けカメラの雑誌とかも出てるじゃないですか。写真を撮ることが好きで、他の人と違うことをやってみたいって思っているコ、たくさんいるしね。
Izaki:すでに松井さんの本を出したいっていう依頼が、出版社から来ています! で、どういった本ですか? って聞くと、要するにライカで撮るインスタグラムとか、ライカで撮る○○っていうのを出したいんだって。その中の主人公が松井さんで、こんな女子でもこんな写真が撮れる! っていうのが、今のカッコいいにつながるのだとか。それは、ありだなぁと思う。たとえば、サロンの方がつくられるヘアカタログが集客の基本なのであれば、変な話、「ライカで撮るヘアカタログ」ってくらいのものを出してもいいんじゃないかなって。
無論、ライカが特別なカメラであることは間違いない。しかし、その取扱説明書には、決して「プロ仕様」とは書かれていない。だからこそ、年齢や性別を超えて、ライカ女子やライカ美容師といったジャンルがあっていいのだ。
鳥羽:クールですねぇ。
Izaki:それもひとつの価値観ですよね。
小松:我々の業界だけじゃなく、料理の業界なんかもそうだけど、ネットは人との違いを表現するのにいいツール。そういう中で、試行錯誤して何かが生まれていくんだと思う。
鳥羽:ヘアカットもそうですが、いきなりやれと言われてできるものじゃない。ライカもそれと同じで、カメラなのにすぐに撮れない。
Izaki:撮れないですよねぇ。
小松:ライカ派の美容師たちがFacebookとかに出すと、他のカメラで撮った写真は出さなくなりますよね(笑)。
鳥羽:それだけ、特別ってこと。
Izaki:とは言っても、僕なんてカメラを始めたのは5〜6年前ですからね。お二人には申し訳ないのですが……。それまではデザインなどをやっていて、逆にカメラマンをに依頼する側だったんです、でも、いろんなきっかけでライカを持つようになって。最初のカメラは他のドメスティックプロダクツのものだったんですよ。ハイクオリティのものをレンズまで全部そろえて持っていました。それでも、正直、丸1日撮影しても5〜10万円くらいのギャラだったわけです。ライトもストロボもそろえ、アシスタントもいて……。でも、イタリアでの一件後、それらをすべて売却し、ライカをもう1台買ってレンズもそろえました。そしたら次の仕事のギャラが一気に10倍以上にアップ。「ライカしか持っていません」「ライカで撮るのでよければ」って言ったら、その金額を提示されたんですよ。僕の作品を見てもいないのに。結局、どう価値観を感じてもらえるか!? なんですよね。
鳥羽:そうですよね。
Izaki:変な話、女のコに僕みたいな怪しい髭のおじさんが「写真撮らせて」と言ったら、普通は断られる。でも、「ライカで撮らせてください」って言ったら1回も断られたことがない。どんな芸能人でも、大御所の女優さんでもね。
鳥羽:何か、行き着いた人って感じがありますよね、ライカって。ロゴマークの使用なんかも厳しいそうですよね。