小松 「Poppers MTV」は、すごく録画しやすい番組でしたよね。当時は、給料が安かったのに、まだ高かったビデオデッキを買って録画していましたもん。
ピーター 紹介するミュージックビデオの頭に1秒ぐらい、あえて間を作っていたんですよ。それまでの音楽番組は、ビデオクリップを流すといっても、だいたい1分ぐらいでカットしたり、サビだけを流したりしていて。それに、そもそも音質もよくないものばかりだったんですよ。
小松 でも「Poppers MTV」は、10分ぐらいの長い曲もノーカットで流していましたよね。
ピーター そうなんですよ。音楽にきちんと重心を置いて、ビデオクリップは全部、カットせずに最後まで流していたんです。音質も、もともとビデオクリップにはモノラルのものが多かったのですが、わざわざレコードを取り寄せて、ステレオの音を全部ダビングして、編集し直していました。
小松 なるほど。だから、僕らも録画したくなったんですね。丸っとミュージシャンの世界を届けてくれていた。だから、見ごたえがあった。
ピーター そう言っていただけるのはうれしいですね。作っているほうとしては、大変でしたから(笑)。ラジオは少人数で作ることができるけれど、テレビ番組は関わる人が多いんですよ。毎回、いろいろな人たちが集まったチームで、レコード会社からかき集めてきた新着のビデオクリップを全部見てから、番組で何を流すかを決めていたんです。
山下 僕は今でも録画したテープをとってありますよ。あの番組で、僕は「お?これは!」っていう経験がいっぱいありましたね。映画の音楽の紹介でも、たとえば「真夏の夜のジャズ」(注2)なんかは、紹介されて、すぐに銀座まで映画を観に行きましたもん。水面を舟が走っている映像が本当に美しいんですよね。
ピーター あの映画は、素晴らしいです。センスのある映画ですよね。
山下 最後、チャック・ベリーが出てくるし(笑)。
ピーター ネイサン・ガーシュマンが暗い控え室のようなところでチェロを弾いているときに、演奏を中断して、タバコに火をつけてまた再び弾き始めるシーンがあるんですけれど、広がる紫煙の白とネイサンの影のコントラストがとても美しくて印象的で。今はDVDになっているんじゃないかな。
山下 あの映画は、美容師さんには、みんなに観てもらいたいですね。何か感じるものが絶対あるはず。そういう意味でも、「Poppers MTV」は、自分がそれまで選ばなかったような音楽を知るチャンスだったし、見ていてよかったなと思える番組でしたね。「今日はどんなビデオクリップが流れるんだろう?」とか「どんなミュージシャンを発見できるんだろう?」って、毎回、すごく楽しみにしていた。