山下 僕はもともとヒット曲って、そんなに好みじゃないんだけれど、ピーターさんが選曲すると、たとえばマドンナの曲でも品のあるように聴こえたんですよね。
小松 そうそう! そういうの、ありますよね。選曲の順番が秀逸なんでしょうね。
ピーター できるだけ「うまく」聞かせてあげたい。やはり、そういう姿勢は自分の中に常に持っています。選曲は「自分が納得すること」が大事だと思うんですよ。それ以外の基準って、僕は持てないですね。
小松 僕らの世界でもピーターさんの仕事と似ている部分があって。たとえば、生放送でリスナーからのリクエストが入るように、お客さまからボブにしてほしいとか、このヘアスタイルにしてほしいとか、いろいろあるんです。
ピーター でも、僕らの世界はリスナーからマドンナの曲をかけてほしいというリクエストがあっても、その曲をかけるかどうかは選択できるけれど、みなさんのヘアサロンの世界だと、お客さまからマドンナのヘアスタイルにしてほしいと言われたら、嫌でもやらないといけないんじゃないですか?
小松 そうでもないですよ(笑)。でも、なんて言ったらいいのかな? やるにはやるんです。だけど、そのままじゃない。そのお客さまにとってのマドンナと、それから僕にとってのマドンナ、そのイメージが共有できればいいだけなので、最終的にはマドンナのヘアスタイルになっていないというか。マドンナに限らず、そのまま要望を形にすることはないんですよね。
山下 リクエストを受けつけないわけではないんです。でも、僕の場合も、最終的にマドンナか?と言われるとそうじゃないかも(笑)。
小松 僕らもただウィッグをかぶせるようにそのままヘアスタイルを切るわけではなくて、髪質や骨格、それからその人の持っているパーソナルな要素をすごく考えるんです。それって、ラジオの世界でいうとマドンナの曲の前後に何を選曲するかということとすごく似ていると思うんですよ。
ピーター なるほど。
小松 今の時代って、ついつい相手に合わせすぎてしまっている側面ってあると思うんですよ。でも、やっぱりそこでも大事にしたいのは、「自分だったら?」という部分。
ピーター 僕も、リスナーから何かの記念日に「ポピュラーなものではなく、あなたの選曲で一曲流してほしい」という要望がよくあるんです。そんなとき、その人の状況を想像して「よし! これでどう?」みたいな感じで選ぶんですけれど、そんなときこそ、自分がいちばん試されている感じがしますよね。
山下 それが「センス」というものですよね。ピーターさんは、当たり前のストライクゾーンを狙いにいくんじゃなくて、意外なところを狙うというか。そういうことをすごく大切にされている感じがします。
ピーター そうですね。でも、そういうときは、ものすごくドキドキしますよ(笑)。
山下 しますよね(笑)。僕らもあります。
小松 今の時流から少しハズすという感覚ってすごく大切で……。あえて5%でも、反対側のものを入れてみる。流行りのものにただ乗るだけではなくて。みんなにもそういうところを楽しんでほしいなって思いますよね。
ピーター 結局、美容師でも僕たちの仕事でも、職人の要素とアーティストの要素が両方、大切だと思うんです。そして、そういった仕事がいちばん面白いと僕は感じています。僕は職人が大好きなんですよ。ちょっと偏屈なオヤジであったとしても(笑)。自分もそういうふうに言われることが多いんですけれどもね(笑)。
山下 でも、そこはやっぱり貫いて、これからもやっていかないといけないなと僕も思っているんですよ。僕たちは、やっぱり他人が見てワクワクするものやドキッとするものを作りたい。僕らが若かったころ、「Poppers MTV」を見ていつもドキドキしたように……。このHAIR CATALOG JPも、そんなドキドキがあるサイトになるといいなと思っているんです。
次回予告
Vol 1 第2回 10/5up
時代と音楽とファッションの密接な関係
ピーター・バラカン x 小松敦 x 山下浩二