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音楽業界と美容業界の側面

山下 あの先にワールズ・エンドがあって。ヴィヴィアンの。

小松 レット・イット・ロック(注3)ね。マルコム・マクラーレンの。だからやっぱりあの時代はファッションと音楽とヘアスタイルがものすごく結びついていて、特にロンドンから来るミュージシャンにはそれがたくさん感じられたんですよね。キュアーとかバウ・ワウ・ワウとか。

山下 カルチャー・クラブとかもそうでしたよね。

ピーター ちょうどあの時代ってMTVができて、ミュージシャンがミュージックビデオをつくり出した時代なんですよ。それはそれで、面白かったんですけれど、デュラン・デュランみたいに、ルックスで勝負できるから「ミュージックビデオをつくれば売れる!」という風潮が出てきたのも音楽業界の側面としてはあるんですよね。もちろん、ミュージックビデオをつくり出した人のうち、すべての人がそうではないのだけれど、売れた手前、コンサートをしないといけなくなるから、コンサートをするじゃないですか。そうすると、演奏があまりうまくないことに気づかれてしまうんですね。それで、一気に冷められてしまって、ミュージシャンの寿命がどんどん短くなっていったんですよ。特にイギリスでは多かったですね。

山下 あ、なんかそれ、嫌な感じですねぇ。

ピーター まぁ、でもあれはミュージシャンというよりマネージメント側がそうしていったという背景があるんですけれどね。そういった音楽業界の嫌な側面もありましたね。

山下 僕らの業界もそういう側面ありますね。

ピーター 美容師としての寿命が短いってことですか?

山下 そうなんですよ。僕らの世代までやっている人は「もういらないよ!」っていうくらい(笑)、長生きしているんですけど。僕たちの業界って、そういう風潮がファッションや音楽の業界よりも後追いで来るんですよ。

ピーター 80年代でも低予算でつくられた冒険的なビデオクリップは結構あったんですが、ポップミュージックの世界で、派手で目を引くビデオクリップをつくれば売れるというヴィジュアル重視の流れができて……。空撮をやったり、派手な衣装に身を包んだりして制作費をかける。そうすると目立つ、流行る、売れる。その循環で、ビデオクリップの制作費がどんどん膨大になってしまったんですね。

山下 僕らの業界と似ているよね。ウケるものをやれば、売れるっていう。

ピーター そもそもビデオクリップは宣伝材料で、レコード会社のツールとして生まれたのに、膨れ上がった制作費は、アーティストの印税から償却するような仕組みを作ってしまった。そうなるとレコードの制作費自体がトータルで高くなる。レコード会社としては、ハズれたら痛手を負うから、どんどん保守的になってしまう。それ以前は、新人なんだから、まずは1枚出して、みんなにいい音楽を知ってもらおうという姿勢だったのに、売れるかどうかで判断せざるを得なくなって。

山下 どの業界も似たような側面を持っていますよね。僕は、どこまで行っても個性を持っていたいなぁ。昨日も「誰のギターが好き?」って話になったんですけど、僕はニール・ヤングが大好きで。たとえ上手ではないとしても(笑)。

ピーター うん、彼のギターは独特の味がありますよね。

小松 ピーターさんの影響で、ジミヘンの再来といわれたスティーヴィー・レイ・ヴォーンとか、いろいろ知ったけれど、僕も彼らのように、自分でしか表現できないものをつくりたいって思っているんです。ずっと。ずうっと。たとえば、美容でいえば、ボブって、誰でも切れるかもしれないけれど、やっぱり他人とは違う「自分のボブ」を切りたいなって。音楽でいえば、ギターはみんな弾けるかもしれないけれど、違うっていう。でも正直、そういう人が少なくなっているのが現実かもしれない感じもしているんです。

山下 そうですね、そういう個性を大切にする人、少なくなってきた感じがありますよね。

小松 確かに、音楽もビジネス、美容もビジネスだから全部を否定するわけではなくて……。たとえば音楽業界でいうとHITチャートを研究して「売るために」という部分にいちばん調子を合わせるような……。ヘアスタイルの世界にもそういった感覚がないとは言いきれないよね。でも、願わくば、僕たちはやっぱり技術やセンスというものを持っているわけだから、ただ調子を合わせるのではなく、自分のつくるヘアスタイルや技術を価値あるものにしていきたい。これからもずっと。そういう人がどんどん増えてくれればいいなと願っているんです。


プロフィール

左) 小松 敦 ATSUSHI KOMATSU

HEAVENS 代表Executive Director 独自の技術論「ツーセクションカット」やアグレッシブなヘアーデザインで注目を浴びJHA受賞。 一般誌・業界誌でのヘアーデザインの作成や海外国内のヘアーショーなどのステージワーク、フォトシューティングセミナーも全国で開催。多くのコンテストの審査員も担当する。

中)ピーター・バラカン Peter Barakan

1951年ロンドン生まれ。 ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。 現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Beat」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(Tokyo FM)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK BS1)などを担当。 著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)『200CD+2 ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック アフリカから世界へ』(学研)、『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『猿はマンキ、お金はマニ 日本人のための英語発音ルール』 (NHK出版)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤 240』(講談社+α文庫)などがある。

右)山下 浩二 KOJI YAMASHITA

1961年鹿児島県出身。1994年東京原宿に『 HEARTS 』をオープン。2001年表参道に『 Double 』を出店し現在、『 HEARTS 』『 Double 』の2ブランドを展開中。サロンワークを中心に美容業界誌に常に登場し、美容師からの信頼も厚くセミナーやヘアショーで活躍中。山下流デザインのカットテクニカル、独自が開発したレザーカットを用い卓越した似合わせのスペシャリストとして 名高い人気を誇る。また昨年、髪書房より『山下浩二のたねあかし』を出版し、美容業界内外で話題となっている。

(注3)レット・イット・ロック(Let It Rock) 1971年にイギリスのファッションデザイナーのマルコム・マクラーレンヴィヴィアン・ウエストウッドがキングズ・ロード430番地にオープンさせたフィフティーズ調ファッションのブティック。1974年、渡米したマクラーレンは、ニューヨークのアンダーグラウンドで勃興していたニューヨーク・パンクに強い影響を受け、帰英後、「Let It Rock」の店名を「SEX」と変えてボンデージファッションを売り始め、さらにこのころに関わっていたストランドというバンドが新たにジョニー・ロットンらを加えてパンクのスタイルで売り出し、セックス・ピストルズと改名する。セックス・ピストルズは1976年にEMIと契約し、デビュー。商業的、音楽的に肥大化した既存のロックへのアンチテーゼ、過激で反社会的なイメージ戦略で大成功をおさめる。これを機にイギリスの若者に一大ブームを巻き起こした。

文中に登場するミュージシャン、etc..

*キュアー (The Cure)  1978年に結成されたイングランド・クローリー出身のロックバンド。初期はパンクを色濃く残すニューウェーヴバンドだった。

*バウ・ワウ・ワウ(Bow Wow Wow) 1980年代前半に活躍したイギリスのニューウェーヴバンド。ポストパンクの旗手アダム&ジ・アンツから、マネージャーのマルコム・マクラーレンがアダム・アントを除くメンバーをすべて引き抜いてロンドンで結成。ジャングル・ビートと呼ばれる斬新な音楽スタイルでイギリスのみならず、日本でも人気が出て、資生堂のCMにも登場した。

*カルチャー・クラブ (Culture Club)  1981年、イギリス・ロンドンで結成されたポップミュージック・バンド。バンドの中心人物ボーイ・ジョージの奇抜な女装(ゲイファッション)で注目されることが多かった。

*デュラン・デュラン(Duran Duran) 1978年に結成されたイギリスのロックバンド。1980年代前半のニューロマンティック(New Romantic)といわれるムーブメントやMTVブームの火つけ役。

*ニール・ヤング(Neil Young) カナダ・トロント出身のシンガーソングライター、ミュージシャン。クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングやバッファロー・スプリングフィールドのメンバーとしても活躍。1969年にソロデビューし、1995年にはロックの殿堂入りを果たした。テクニカルな側面は強くないが、ゆがませた爆音のようなサウンドで多彩な情感を引き出すギタープレイは、まさにオンリーワンというべきものとして支持されている。 また、武骨かつ繊細なアコースティックギターのプレイも人気が高い。

ジミヘン  アメリカ合衆国のミュージシャン、シンガーソングライター。ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)の名で親しまれ、日本では「ジミヘン」の略称でも呼ばれる。短いキャリアながら、ギターという楽器の可能性を拡大しながら創造した作品の数々は、ロックとは何かを提示し、世代を越えて数多くのアーティストに影響を与え続けている。

スティーヴィー・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughan) アメリカのブルース・ギタリスト、作曲家、歌手。演奏スタイルはエレクトリック・ブルースのひとつの頂点と考えられており、後進の音楽家に巨大な影響を与え続けている。ロックのフィールドにブルースのフィーリングを持ち込んだ最大の功労者的存在。

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