山下浩二(以下、山下) 僕の場合ヘアスタイルの根源は音楽なんですよね。それをうちのスタッッフにすごく伝えたいんですよ、今あるヘアスタイルがいろいろな形が合わさってできているように、この曲は、これとこれが合わさってできたんだと伝えたいんだけど、なかなか伝わらない。言い方が悪いのかな (笑)。言葉で伝わらないならと、お店のBGMを僕がすべて選曲して、今流行っている曲の元ネタになった曲を営業中にずっと流し続けるんですよ。スピードラーニングみたいに(笑)
ピーター・バラカン(以下、ピーター) なるほど(笑)。でも難しいのは、「他人に聴け」と言ってもなかなかそうはならないところですよね。やはり、興味を持つきっかけをその人自身がつかまないと。僕の息子は今26歳で、完全にヒップホップ世代なんですよ。彼がヒップホップを聴きだしたのは2000年代からですけれど、聴き込んでいくうちに10年くらい前のもの、90年代のヒップホップのほうが面白いと感じ始めたらしいんです。僕はヒップホップをそんなに聴かないからわからないけれど、彼が言うには「90年代初頭のヒップホップがいちばんカッコイイ」と。そこからまたさらに聴き込んで、今度はサンプリングされているものに興味がいくようになって、元ネタを探し始めたんですよね。それこそDISK UNIONとかで70年代のソウルジャズやファンクのLPを買ってきて、それを今は聴いたりもしている。昔の音楽をさかのぼって聴いているという一例ですけれど。
山下 それは素晴らしいことですね! みんな、なかなかさかのぼろうとしないんですよね。そういうふうに。今、世の中に出ているヘアスタイルも音楽も、いろいろなものが混ざり合ってできているじゃないですか。この音楽はこれとこれ、このヘアスタイルはこれとこれ、という感じに。決して混ざっていることが悪いのではないけれど、何と何が混ざっているのか気づいていないし、それを知ろうとしない。さかのぼろうとしない。それを知るようになるとものすごくいいものがつくれると思うんだけどなぁ。
小松 敦(以下、小松) でも、難しい話だよね。ピーターさんの息子さんみたいに、好きっていうことが先行するとさかのぼれるエネルギーがあると思うんだけれど、やっぱり「勉強しろ」っていうアプローチになると途端に難しくなる。食べものも似たようなところあるよね。今の時代ってコンビニやファミレスなんかでも、全部同じ味がするじゃない。それはそれで悪くはないんだけど、日本人特有の苦いとか渋いとか、そういう味覚が少しずつ失われつつあると思うんですよ。そして、その下地で舌が育った人たちが子どもに料理をつくって食べさせるから、うーん……ってなっちゃう。
ピーター そうですね。おふくろの味って感性をつくってくれますからね。音楽もそう。僕もたまたま母親がビリー・ホリデイやレイ・チャールズが好きでよく聴いていたんですよ。「これを聴け」と言われたことは全然ないんだけれど、母親がいつも聴いていたから、いつも耳に入ってくる。そうこうしているうちに、自分も好きになりだして。まだ10歳とか11歳のときだったかな。
山下 そういう意味では、今の中学生でも、ものすごくマニアックな子とかいますもんね。
ピーター うん、すごくいいことですよね。