ATSUSHI KOMATSU -KEEP THE FAITH EPILOGUE_2-
バラカンさんと今回、初めてお目にかかって、いろいろお話しをして、音楽と美容の世界での違いも感じたけれど、一方で多くの共通点も再確認しました。
それは、美容も音楽もファッションと深く連動しているということ。そしてそのファッションというのは、70年代後半から80年代、90年代で、ほとんど今の基本となっている価値観がつくられていることも改めてわかりました。
鼎談を終えて、僕は、音楽と時代感を作品の中で見せられたらなと思ったんです。そして、女性のシーンを2つ切り取りたいと思いました。2枚の写真を現代的な手法で合成したこの作品は、モノクロームを使い、撮影のテクニックとしては、あえて古くさい方法で、ブレの世界を表現しています。業界誌などでヘアスタイルを発表するときは、毛流れが見えていないといけないとか、髪の色がわからないといけないという理由で、なかなか僕の好みだけで発表することはできないけれど、僕はもともとモノクロームの世界が好きなんです。
モノクロームのブレのある写真って、なんだか「リアル」に感じませんか? 本来、人間の目は、色彩を持って物事を見ています。だから、人間の目にはモノクロの世界って、本当はない。そして意識してものを見ようとすると、人間は自然にピントを合わせてしまうので、ブレというものもない。にもかかわらず、「リアル」に感じる。
それはたぶん、色やピントがあっていない分、シャッターを切った人の、そのときの心情が写真に写るからだと僕は思っています。「あ、今だ!」と、心に衝動が起きたときに、ピントを合わせている余裕なんてないはず。ロバート・キャパのようなモノクロの昔の報道写真を見ると、そこには、今のような色彩の情報などがないのにリアルに感じるのは、キャパがシャッターを切った臨場感がその写真に写っているからだと思うんです。
ファッションの価値観が築き上げられていた70年代後半から90年代は、ヘアスタイルもさまざまなものが出てきていた時期でした。今、再びトレンドになっているウルフだって、この時期に出てきて、これまでに何度もムーブメントになっているスタイルのひとつ。そして、僕はこの時代にはあって、今の時代に失われているもののひとつに、ヘアスタイルにおける色気があると思っています。
色気って、生命を持つものが放つ力で、生々しいもの。セクシーとかエロっていうような軽いものじゃない。でも、女性を美しくしようと思ったときに、その女性の生き様を感じさせる色気は欠くことができないものだと思っています。生々しいから、怖い。だから美容師に勇気がないと色気のあるヘアスタイルは難しいかもしれません。
色気があってリアルな女性。音楽と時代感。それを僕は、モノクロの2枚の写真を1枚に合成するという作品で表現してみました。