赤松 本当はモデルをカットしていないのに、ヘアアイロンで巻いただけで「自分がつくったヘアスタイルです!」というやり方をしている美容師がいる一方で、私は、リアルにこだわりたいし、ヘアスタイルってモデルのパーソナリティーがにじみ出てくるものだから、雑誌でヘアデザインを発表するときには、本当にデザインができるモデルを探すんですよ。
安藤 それが本来ですよね。
赤松 そうなんですよ。でも、そうなるとモデル探しって、実は大変で。
安藤 ごまかせないですもんね。
赤松 ごまかせないから、大変なんです(笑)。たとえば私がサロンの営業が終わったあと、ウィッグを出してきてデザインを考えていたりすると、アシスタントがその姿を見て、モデルハントを頑張ってくれるんです。
安藤 やっている姿を見せる?
赤松 そうなんですよ。せっかく一生懸命アシスタントが探してきてくれたモデルでも、作品に合わない感じがしたら「もうひと息粘って」ってお願いするんですけれど、夜な夜なそんなふうに私が一生懸命練習しているのを見ると、彼らも「いいモデルを見つけに行かなきゃ!」と思ってくれるみたいで、また街に繰り出してくれるんです。今は、その連鎖ですね。
安藤 熱の伝え方って難しいですよね。
赤松 熱って、言葉で伝わるものでもないですからね。でもこっちがガムシャラにやっていると、その温度と真剣さは伝わる気がします。それでここ5年くらいは、うちのサロンはチームとしていい感じになってきていて、「企業っぽく」体裁を整えようとしていたときよりも、はるかに離職率が下がっているんですよ。
安藤 「定時で帰れますか?」みたいなノリじゃなくなっている(笑)。
赤松 ただただ一生懸命好きなことやる。そういう人たちが業界の中にいてほしいなって思っているんです。業界全部がそうなればいいってことではなくて、「価値観は業界の中にひとつだけじゃないよ」って示していきたいなと思っていて……。そんなことを考えていたときに、映画業界では、桃子さんのいらっしゃる※1ゼロ・ピクチュアズを同じスタンスのように感じたんですよ。大手に属さず、プロデューサー、監督、俳優さんたちといった製作者主体で映画づくりを行う独立プロダクションで、自分たちがいいと思うことをやっている人たちなんじゃないのかな?って。
安藤 今は、独立プロは、ほとんどつぶれていて、入口から出口までやっているのはウチを含めてひと握り。スタンスについては、赤松さんがおっしゃられたことに本当に共感しますね。映画も大手の商業映画は、それはそれで存在し続けるだろうし、きっとそういう作品しか観ない人もいる。でも、つくるのも観るのも人だから、その中で一部かもしれないけれど、きっと本質に気づく人もいるんじゃないかなって思うんですよ。
赤松 うん、私もそう思います。
安藤 食べ物も服も食器も、パッと見た目は同じでも、一方はプラスチック製、一方は磁器ってことがあるし。似たような肌触りに感じても、一方はカシミア100%で、一方は石油由来100%の素材でできているってことがある。そんな状況の中で、本物がいい人はちゃんと選ぶだろうし。こういう時代だからこそ、本質が試されているっていうのかな? 一生懸命続けていけば、本質がぐーっと浮かび上がってくる時代が来ると思うんですよ。そういう意味では、映画もファッションも美容も、今、はざまのときだと思いますね。
赤松 似たような状況にある感じがしますね。
安藤 一回崩壊すればいいと思う。
赤松 うんうん、崩壊したほうがいい!
安藤 映画は、細かいことをいえば、やっと崩壊したところなんです。崩壊したところで、※2『0.5ミリ』が独立プロの作品としては、これまでにありえないような革命的な形で配給もされるようになって、フィーチャーされている感じです。これまでは、興行収入できちんと制作費が回収できないようなことが当たり前だったんですけれど、私は、映画はエンターテインメントだから、回収できないのでは意味がないと考えています。だから、それを成立させるには、どうしたらいいか?というのがいつも課題で。
赤松 自己満足で終わらない形がめざすところですよね。
安藤 メジャーはメジャーでいいし、インディーズはインディーズでいいと思っていて、ただ、メジャーに石を投げ続けているインディペンデントがいいな、と(笑)。メジャーが外しか見ていないうちに、山の麓に石を投げ続けて、そのうちちょっとメジャーが振り返るかな?とか、ちょっとずつ、山の麓を崩せればいいなっていう(笑)。
赤松 構造としては、美容業界も同じです。そして、私のスタンスも桃子さんと一緒! 以前にこのHAIR CATALOG.JPの編集長に似たようなことを言ったことがあるんですよ。「メジャーに対して影響力のあるインディーズでいたい」って。「無視されないような存在になればいい」って。