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欲望に誠実になった先で得る
引き算の幸せ

赤松 楽しいことを一生懸命やっている姿に人が引き寄せられていくっていうのは、当たり前で普通のことだと思うんですけれど、実際は人って、一歩外に出るとみんな何かに合わせたり、我慢したりしていることが多い時代かなって。もっと好きなことをやって楽しんだらいいじゃんって思うんですよ。何かに縛られて動けなくなっている人を見ると、それって、誰が決めた枠なの?って。それがなくなっていけばいいのにって。

安藤 「ねばならない」世の中ですよね、今って。こうじゃなきゃいけない、こういう服を着なければ、こういう生活をしなければ、こういう家に住まなければっていう。これが普通なんだよ、もしくは、これが特別なんだよって、全部、「ねばならない」でがんじがらめになっている感じがしますよね。でも「ねばらならない」を追求していくと、そうじゃかったときのギャップに苦しむでしょ。「ねばならない」をはずしても、死にはしない(笑)!

赤松 ホントに。

安藤 東京を離れて、高知に移住するときに、高知は私にとって知らない街だから、「32歳でこれからってときに、どうして?」って、よくまわりの人に聞かれたんですけれど、死にはしない!って思っていたんですよ(笑)。もちろん、会社が東京にあって、家族がみんな東京に住んでいて、子どもがいて小学校どうするの?って、いろいろあるかもしれないけれど、私には、そういうことがなかったし。夫も高知だったら喜んで行くって言うし。だから、「ねばならない」を忘れた瞬間に自由になれるって思うんです。

赤松 本当にそうですよね。今、私は41歳ですけれど、年を重ねるほど、そういう枠がはずれていくのかもしれません。20代は、肩に力が入って、理想に向かっていく感じだったかも。今と同じように、楽しいことに対しては貪欲だったけれど、堅かった気もする。でも、今は、どんどん捨てていって小学生みたいになっているのかも(笑)。

安藤 荷物を持ったままお墓には入れないし、お金も持ってはいけない。だから、引き算していけることのほうがよっぽど幸せだと思うんですよ。確かに私も若いときは「こういう人に好かれたい」とか、好きな人に対しても「もっと愛情をかけてほしい」と思っていたけれど、今、30歳を越したら、自分がいとおしいと思うものがひとつずつ増えていくことがすごく幸せで。たまには、相手からも欲しいけれど(笑)。でも大事だと気づけるものが増えるほうが心が満たされるんだなって思うんですよね。

赤松 年齢も関係あるかもしれないけれど、逆にいえば、なんで気づかないんだろう?って思うんですよね。

安藤 最近、若くて悟っている人もいますよね。それを見ると、もったいない!って思うんですよ。何かに対して「欲しい!」という欲望のマックスまで、自分が燃え尽きるんじゃないか?というまでくらいまでの強烈なエネルギーを自分が認めてあげないと、その先に行けない感じがするんです。

赤松 なるほど!

安藤 勉強もしたほうがいい。たくさん本も読んで、映画も観て、物を知ったほうがいい。頭でっかちはよくないけれど、砂時計のようにまずは上の部分に知識を詰め込んで、その砂が体験や経験という時間とともに、下にポツポツと落ちていく。その砂がひと粒ずつ落ちていくことが、腑に落とすことなんじゃないかなって考えているんです。人生経験とともに、心が傷ついたり、喜怒哀楽、いろんな葛藤がある中で、ふとしたときに、以前に読んだ小説に書いてある恋ってこれだったの~っていう感覚になることってあるじゃないですか。だから、人生、経験と頭、両方で学ぶことが必要だと思うんです。

赤松 うん、両方必要ですよね。

安藤 芸術家の草間弥生さんなんて、砂時計の上の部分も開いていて、全部が宇宙からそのまま流れ込んでいるような感じ。

赤松 確かに。そういう人もいますね(笑)。

安藤 砂時計の上の砂は、多ければ多いほどいいって思うんですよ。今、私はちょうど30代だから、半々ぐらいがちょうどいいのかな?って思ったりして。バランスよく、心身ともにある感じで。あ、そうそう「心身ともに健やか」って言葉が好きなんです。

赤松 私、「なんで桃子さんに会いたいの?」って聞かれたときに、実は、「心身ともに健やかな感じがするから」とも答えているんです。「明るいオーラを感じます」って言ったの。それにロックと愛を感じたの。

安藤 今ね、妊婦だから、ロックになりきれていないけど(笑)。

赤松 桃子さんがつくられた映画を観ていてもそうなのですが、桃子さんご自身がピュアだなって思ったんですよね。健やかって言葉は、本当に桃子さんに似合う言葉だと思う。飲み物なら、牛乳が似合う(笑)。

安藤 牛乳か(笑)。すっごい酒飲みですけどね。お酒が本当に好きで。一升ぐらいはいける。

赤松 え? 一升? 私は、すごい酒飲みだと思われるんですけれど、飲めないんです。顔が酒豪なだけで(笑)。自分でも酒豪の顔だなって思うし、そう思われているのもわかるんですけれど。

安藤 うちは、赤松さんと同じで夫がそうなんです。ビールをちょっと飲んだだけで、チーンっみたいな。でも私と父につきあって飲まされていくうちに、日本酒をちょっと飲めるようになってきたんです。お酒って、きっとちょっとずつ飲めるようになっていくんでしょうね。

赤松 私は、アシスタントのときは飲んでいたんです。というか、飲まなきゃやってられなかったんだと思うんだけど。そういうのがなくなってからは、飲まなくなりましたね。

安藤 私は、食べることと寝ることが人生でいちばん好きなんですよ。食べることが好きという中には、食べないことも含まれているんですけれど。食べないでいて、おにぎり一個食べる幸せってあるじゃないですか? だから、おいしいと感じるためには断食できる。睡眠も同じで、寝ていなくて、ウトウトしているときがいちばん幸せ(笑)。寝すぎたら眠れなくなるし。

赤松 わかる!

安藤 私の場合、お酒だけを飲みにバーに行くってことはないんです。食いしん坊だからお酒が好き。今日は、この日本酒を飲みたいから、この米を買ってきて、この肴をつくって、とか、今日はワインだから、何を食べるか?っていうのが全部一緒についてくるんです。

赤松 健やかだ~(笑)。

安藤 そう。それがなくなったら、精神的に不安定になるから、自棄酒はしないんですよ。あくまでも楽しく食べて、飲むことが大切だから。

第3回へ続く

プロフィール

右)安藤 桃子 MOMOKO  ANDO
1982年東京都生まれ。映画監督。小説家。高校時代からイギリスに留学、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。その後ニューヨーク大学で映画づくりを学び、監督助手として働く。2010年4月、監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が、ロンドンのICA(インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京で同時公開され、その他多数の海外映画祭に出品、国内外で高い評価を得る。2011年に幻冬舎から初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』を刊行。現在、文庫版が幻冬舎から発売中。また、同作を自ら監督した映画『0.5ミリ』が2014年11月8日に公開し、現在も全国公開中。また、毎日映画コンクールでは脚本賞、その他の映画賞では作品賞、監督賞など日本の映画賞の数々を受賞した。
左)赤松 美和 MIWA  AKAMATSU
VeLO ディレクター。大学時代にバックパッカーとして海外をひとり旅したときの経験から、言葉以外の手段によるコミュニケーションツールを求めて美容師になることを決意。ハサミを通じてのゲストとのコミュニケーションをライフワークとする。2003年原宿に鳥羽直泰氏とともにヘアサロン「VeLO」をオープン。2009年同じく原宿にヘアサロン「vetica」をオープン。現在、VeLO ディレクターとしてサロンワークを中心に、雑誌の撮影、セミナー、ヘアショーなどで活動。2015年4月、2店舗同時移転リニューアル。“大人が集う原宿“でヘアを通じて「日常を素敵に。」という思いを発信中。

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