赤松 桃子さんのキャラクターを拝見すると、和津さんの教育の姿勢が素晴らしいものだったと想像がつきます。私には子どもがいないけれど、サロンのスタッフがファミリーで、スタッフたちが子どものような存在なんですよ。だから、仕事上のつきあいだけってドライになるんじゃなくて、仲間とか家族だって思っていて。表面的にうまくやっているだけでは面白くないから、ぐいぐい入っていくんですよ。
安藤 監督業もそうだけど、人間関係のスタンスの取り方って、たぶんどっちかですよね。距離をおいてクールにやるか、ガッツリ組んでどっぷりと関係を築くか。
赤松 「本当の声が聞きたいの、私は!」ってよく思うんですよ。
安藤 それこそスタッフに、彼氏連れてきなさいよっていう感じ?(笑)
赤松 リアルにそうなんです。私がスタッフの教育で、ただひとつ思っているのは、「本当に面白い人間になってほしい」っていうことなんですよ。売り上げの数字だけで判断することもしないし、先輩をお手本としたスタイリストになる必要もなくて、その人の色を持ってスタイリストデビューしてほしいって思っています。うちのサロンは、サロンブランドとしてひとつのカラーがあるわけではなくて、美容師のセレクトショップのような感じ。個人が各ブランドであり、それが束になってひとつになれればいいと考えているんです。
安藤 いいですね、美容師のセレクトショップ。
赤松 どう面白い人間になるかは、そのコしだい。デビューするスタッフは、それぞれ全然色が違うし。結局、面白い人のところにお客さまって来てくださるんじゃないかなと思っていて。
安藤 そういうものかもしれないですよね。
赤松 売れるためにマーケティング重視で、「じゃあこういうふうに広告を打ったらお客さまが来てくださるんじゃないか」って戦略が先に立ってしまったりするのは私たちのブランディングでは違うな、と。スタイリストその人が面白ければ、その人のことを好きなお客さまが寄ってくるから、それでいいと思っているのです。だから、それを実現するためには、スタッフひとりひとりの本当の声が聞きたい(笑)。
安藤 上っ面の言葉じゃなくて。
赤松 そうなんですよ。「本当はどう思ってるの?」ってよく聞くんです。でも日本の教育のせいか「自分はこう思います」って言うことに慣れていないんですよね、たいていの人が。発表しなくても、だまっていれば授業は終わるし、自分の意見を何も言わなくて済んでしまう。そして余計なことは言わないほうがいいと思ったり、「空気読む」みたいな雰囲気が当たり前にある。だから、うちのサロンに入って、いざ話そうとすると、まず正解を探そうとするんです。ここではイエスと言っておくのが正解なのか? ノーが正解なのか?って。
安藤 要らぬ空気を読む姿勢ですね。
赤松 これを言ったら気を悪くする人間がいるから言わないでおこうとか。やさしさが中途半端なんですよ。正解なんて、こちらも用意していないんだから、本当の声を聞かせてくれればいいんです。
安藤 確かに! 正解なんてないことのほうが多いですもんね。
赤松 ただ、やっぱり意見を言ってもその考え方がひとりよがりなことであれば通りません。「自分はこう思う」ということが相手にきちんと意見として伝わるような人間力は身につけてほしいと思っています。うちのスタッフに、すごくやさしい男のコがいて、最初は自分も深く傷つきたくないからか、まわりに気を遣いすぎているような言動が見受けられたので、「あなたにはロックが足りない!」って忌野清志郎さんの本を渡したんです。彼、今では厳しさの中のやさしさを身につけて頼もしい存在です。そういう日々の繰り返しです(笑)。だから、和津さんの子育て論をお聞きして、私も面白い人を育てていけたらなって改めて思いますね。