赤松 私は、オリジナルとコピーでは、響き方が違うと思っているんです。ただジレンマとしては、世の中の大半の人がそこに気づいていない感じがしています。
安藤 受け取る側のセンスですよね。だから、話は戻るけれど、いざ自分が子どもを育てるとなったときに、どうするのかは、ひとつ課題です。これからの子どもたちが本質に触れて育つことができるのかどうか。
赤松 本質が見えにくくなっている世の中で、人を育てていくのは大変ですね。
安藤 たとえば、私が小さい頃は、商店街に豆腐屋があって、豆腐屋には豆乳やおからがあって、学校に行く時間にはもう豆腐ができあがっていて……そんな光景を当たり前のものとして見ているから、豆腐の原料は大豆だと当たり前に知ることができた。でも、今、都会の豆腐屋さんは激減しているし、スーパーに行けば、豆腐はすでにきれいにパッケージに入れられて並んでいる。そんな光景ひとつとっても、本質を見る視点から離れてしまっている気がします。体験を通して、本質的なことを教育すること。本質を見る視点を育てていくこと。そんな教育のシステムをもう一回考え直したいなって思いますね。
赤松 美容師の仕事は、お客さまとの一対一のコミュニケーションだから、「私はこう感じています」とか、「こんなふうに思いますよ」って、思いや考えを言葉にしてダイレクトにやりとりできるのが面白味でもあるけれど、映画の場合は、一気に世界中に向けて発信できるから、それはそれで面白そうですよね。「0.5ミリ」もそうじゃないですか。ただのエンタテインメントというだけでなく、いろいろな人にいろいろなことを考えるきっかけを投げかけられる。それは面白いなと。
安藤 私、説明するのが好きじゃなくて(笑)。作品の中に、いっぱい置いておくからさ~みたいな。
赤松 受け手のセンスにまかせるっていうところがありますよね。私も好きな言葉に"Don't think,FEEL! "(頭で考えるな、感じろ!)があるんです。ブルース・リー的な発想にとても共感していて(笑)。でもそれは、空気読めとはまた違うことで。
安藤 うん。感じてほしいですよね。い~っぱいつくって、テーブルに並べとくから、好きなのから食べてって!みたいな。
赤松 「0.5ミリ」は、解釈の度合いとか、どこが響いたかって人によって違うと思うし、面白いと思うシーンもそれぞれが違うと思うし。そういう受け手にとって余白があるっていうのが好き。
安藤 そう思ってもらえるのはうれしいですね。
赤松 それから。桃子さんに直接、絶対言いたかったのは、登場する車がいすゞ117クーペだったこと。観ていて、私、心躍った!
安藤 車、お好きなんですか?
赤松 私自身は今、1969年製の車に乗っているんですけれど、昨今の大量生産型のフラットな車じゃない、何かパーツひとつとっても職人の魂を感じるものが好きなんですよ。アンティークがただ好きなわけではなくて、古いものが好きというよりは、古いものに、職人の魂を感じることが多いから好きという感じで。だから、映画にあの車が登場したときに「おぉ! これをチョイスするのか~っ。やるじゃん!」みたいな。
安藤 それはうれしい! あの車、エンジン音が独特でしょ? ボンボボボボーっていうあの音を印象的な音楽として使用したかったんです。今は静かな車が多いですが、車って生き物みたいな音を出すものなんですよね。
赤松 うん! 音が印象的だった。
安藤 あと、白の見た目もかっこいい。
赤松 日本車であんなにかっこいいの、あまりないですよね。
安藤 あの車のバックショットは、本当に美しいですよね。
赤松 観た瞬間におーっと思いましたもん。